【暗殺教室】彼はなかなか振り向いてくれない１６【赤羽業】 (ページ10)

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◯振り向いてよ７５７ページ10

心臓が嫌な音を立てた。

『＿＿＿ひぃっ.....！』

上擦った悲鳴が、案外近いところで聞こえた。
驚いてその場全員の視線がAに集まる。
がざ、と落ち葉と土が、靴の裏で擦れ合う。彼女が後ずさったからだ。
彼女の真っ白な頬から赤い線がたらりと細く垂れ下がる。

(茅野ちゃんの攻撃が、当たった？)

俺の心臓が嫌な音を立てた。大切な人に、跡が残るかもしれない傷。
その場の全員がAに意識が行った。勿論茅野ちゃんだって。

『.....、ごめんね茅野ちゃん』

口元に手を当てたままの彼女が、ぼそりと声を落とす。近くに居た俺はすぐに攻撃が当たったわけじゃないと気がついた。

(あぁ、どうして)

暗殺者ってヤツは。

(自分自身を武器にしたがるんだろうか)

ーー

ーーー

思わず彼女を掴んだままの手に力が籠る。
いつもなら合わせる歩幅もスピードも、全て無視してつかつかと歩く。

『カルマ君』

聞こえた声に振り返って、目を合わせた。

どうしたの？

目が、表情が、仕草が。そう聞いていた。

「痛いでしょ」

俺が言えたのはそれだけ。自分で思った以上に低い声が出た。
Aはそれに気がついて、少し眉を寄せた。

『ううん、我慢出来ないほどじゃないよ』

「我慢出来る痛さでも同じだろ」

ぎゅぅ、と掴んだ手のひらを強く握る。

(痛い)

ぐずりと心臓が嫌な音を立てた。

「痛いよ」

彼女を真っ直ぐに見れなくて、目線を下に落とした。

「Aが、大丈夫って言ってても、俺は痛いよ」

『カルマ君』

「なんでなの？ Aが傷ついて、俺が悲しまない分けないだろ」

『.....、』

ぴたりと彼女は黙り込んでしまった。俺も黙り込む。無言でポケットから濃い色のハンカチを取り出すと、頬に当てた。血は止まっていたけど、結構深そうだ。
跡が残ったらどうしよう。彼女の綺麗な肌が傷ついてしまった。

目に見えて俺は不機嫌なのだろう、いつもならこの辺でAは何か言うのに、今回は何も言わない。
沈黙だけが周りを支配する。
分かってくれないやるせなさを、どこにも消化できずにぐるぐると回る。
このままじゃダメだ。

「.....分かった」

『何が？』

「Aが自分を大切にしてくれるまで距離置こう」

『え、それって』

「別れるわけないじゃん？そういう意味じゃなくて、ちゃんとAがひとりで冷静になって考えるための距離を置こうって話。分かる？」

ぎこちなく、分かったと複雑そうな表情で頷く彼女に、俺もなら戻ろうかと声をかけた。