【暗殺教室】彼はなかなか振り向いてくれない１６【赤羽業】 (ページ39)

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致命傷だった。医学を極めた「死神」でも治せないような。

倒れた彼女の頭を持ち上げる。出てきた声は、自分の声とは思えないほど掠れていた。

「なぜ...飛び出さなければ私の巻き添えにならなかったのに」

相当の痛みが彼女を襲っているはずなのに、相変わらずの優しい笑顔で口を開いた。

「...ドジこきました。まさかあんな罠がびゅるって来るとは...、だけど...声掛けた位じゃあなたは止まってくれない気がして」

その通りだった。あのまま下界へ出ていけば...
歪んだ感情が触手を歪め、歪んだ触手が感情を歪め、どす黒い姿の破壊生物として安定してしまうところだった。
呼び戻してくれたのは...彼女の感触だったのだから。

(あと0.1秒早く気付けば守れたのに...、精密な触手を医療に使う訓練をしていれば救えたのに！！)

悔しさで噛んだ奥歯が欠けた。
世界を憎んで育った殺し屋は、得たもの全てを相手を壊す目的のために使ってきた。

ようやく気付いた。身につけた力の使い道はもっとほかにあったことを。

単純な答えを探す時間は沢山あったはずだった。
殺す力を、壊す力を、彼は誰かのために使ったことが無かった。

どうして、どうしてと悔しさと後悔が混ざる中で、ようやく絞り出した言葉は贖罪だった。

「私が、殺したも同然だ」

思い詰める顔をする死神に、ふわりとあぐりは笑う。

「そんなわけ...ないじゃないですか。それに...ね、あなたになら...私はたとえ殺されてもいいと思う。それくらいあなたを大切に思えるから」

きっとあなたもそんな相手に巡り会えますよ、というあぐりに、君以外にいるとは思えないと答えた。

げほ、と血を吐いた彼女は、それでも声帯を震わせた。

「.....もし.....残された1年間、あなたの時間をくれるなら」

それは、彼女の最期のお願いだった。

「あの子達を教えて上げて。あなたと同じ様に...あの子達も闇の中をさ迷ってる。真っ直ぐに見てあげれば.....きっと答えは見つかるから」
「君がそう言うのなら」

なるべく優しい声で了承すれば、安心したように微笑んだ。

「.....なんて...素敵な触手...！！ .......この手なら.....、きっと、あなたは.....、素敵な、教師に」

だらりと力が抜けて、あぐりは永遠に目を閉じた。
結局、彼女は最期の最期まで教師のままだった。