【暗殺教室】彼はなかなか振り向いてくれない１６【赤羽業】 (ページ36)

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音もなく夜に浮かぶ三日月を見た柳沢は、嫌汗が背中に伝うのがわかった。
彼の部下が震えながらパソコンを動かす。

「マウスと人間の細胞周期を対比すれば...人間の細胞が同じ不具合を起こす瞬間を、このように正確に算定できます」

月から画面に視線を移した柳沢は、部下が言わんとしていることをすぐに悟った。
来年の３月、「死神」にも同じことが起こる。

「地球が.....滅ぶ！！」

計画は失敗だ。地球規模の問題に発展してしまった彼の部下らは青白い顔で主任に指示を仰いだ。
奥歯を噛み締めながら柳沢は指示を吐く。

「.....決まっている、「死神」は処分だ！！分裂限界の前に心臓を止めれば！ .....要するに殺せば！！サイクルは安全に停止させられる！！」

ひとつの大きな事実が研究所内に大混乱招いた。
その事を大声で話してしまった柳沢は仕方のない事。
そしてそれを、実験体としてではなく、信頼関係を築いてきた人間として

.....「死神」に伝えてしまったあぐりも責められない。

同様が抜けきれない表情で死神の元へ駆け寄った彼女は、黙って事実を聞く死神のおかしな様子に気が付かない。

「望みを捨てずに助かる方法を探しましょう！私に出来る事なら何でもします」

「死神」の耳に、あぐりの声は届かなかった。
指先から少しずつ体温が消えていくような、そんな感覚だった。
自分が死ぬと分かった瞬間、「死神」は間違った悟りを開いた。

(そうだ、何故忘れていたんだ)
人間とは死ぬ為に生まれた生物。増して自分は夥しい人間を葬った殺し屋。
呪われた死を迎えるのは...当然の義務だ。

顔を上げた死神が、似つかわしくない微笑みを浮かべたのにあぐりは驚いて少しだけ後ずさる。

「さよならですあぐり。私はここを脱走(で)る」
「！！！」
「予定よりやや早いが、それでも充分なパワーを手に入れた。計算上はこの独房を充分破れる」

人ならざるものにゆっくりと姿を変えていく彼を見て、あぐりは監視されていることを忘れて叫んだ。

「ダメ！！悪いことする気でしょ「死神」さん！！私は...楽しいあなたと一緒にいたい！！」

止める気ですかと聞く死神に、はいと返事をした。

「君がどうやって？その腕で？その頭脳で？」
「私以上の才能が無ければ...止める事も救う事もできませんよ」

ピシッとアクリル板に亀裂が入る。
亀裂の入ったアクリル板から見える彼の表情は、冷たい殺し屋の顔だった。