【暗殺教室】彼はなかなか振り向いてくれない１６【赤羽業】 (ページ32)

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◯振り向いてよ７７９ページ32

良かった、と笑ったあぐりだが、すぐに表情を変えて緩く息をついた。

「.....、でも、これは多分渡せないんです。規則だから。私が直接つけてあげたいのに、色々思い通りにいきません」

アクリル板に額を当てて、ぽつりぽつりと話し始めた。
去年の自分は生徒の目に光を灯すことができなかったこと、今年も同じような目をした生徒が入ってきているが、全員に自信を取り戻せることができないかもしれないこと。

「柳沢さんから、教師をやめてここで専属で働くように迫られています。教えられるのは多分今年が最後」

顔を上げ、E組の生徒はいい子達ばっかりなんですと話しかけた。死神は静かな表情で聞いている。

「なんとしても彼らの援けになりたいんです。最後だから...この教師(しごと)が好きだから」
「.....」
「.....「死神」さん」

黙り込む死神に、あぐりの声が零れた。

「.....あなたに、触れたい。支えてくれたあなたに触れたい。感謝を渡して、最後の1年を頑張る力を与えてほしい」

いつも気丈に振舞っていた彼女の声が、ここまで弱々しく聞こえたのは初めてだった。
目を伏せていたあぐりの頬に、細い糸のようなものが滑る。はっとして顔を上げると、柔らかい目で触手を操る彼がいた。

「死神」は、研究者達が考えているよりはるかに早く、触手を自在に操れるようになっていた。
監視カメラにも映らない極細の触手。彼女に知られることは脱出のリスクになるのだが、

「死神」もまた彼女に.....感謝を伝えたかった。

優しくあてがわれた触手と同じような柔らかくあたたかい声が降ってくる。

「大丈夫。あなたならできますよ」
「...はい」

短い言葉だったが、彼女には充分だった。

二人が初めて触れ合ったのは...三日月が生まれる６時間前。