この感情は。 ページ19
更衣室を出て空を見上げれば、もう既に薄暗くなっていた。もうすぐ夏で日も長くなって来たとはいえ、まだまだこの時間帯は肌寒さがある。
「サワムラ先輩。すみません、お待たせいたしました」
更衣室から部室棟へ小走りで向かえば、先輩が階段に座って携帯をいじっていた。そっと声をかければ、顔を上げて笑顔に変わる。それを見た私の心臓は瞬く間にマラソン状態になるのだから、本当にダメだ。
「いいよ。もう少しゆっくりで良かったのに」
「いえ、態々待っててもらってるので」
首を振って答えたけど、もしかしたら可愛げが無い返答かもしれない。サワムラ先輩は立ち上がりながらふは、と笑って真面目だなぁと零す。
「あの、本当にいいんですか?」
「いいよ。1人だと危ないから」
今日は全員で帰る訳では無いらしく、各々だらだらと駄べりながら部室にいたりするみたいだった。
学校から私の最寄りのバス停までは坂の下よりは近くて、10分もない。その距離でもサワムラ先輩は心配してくれて、前に言った通り仮入部期間は送って貰うことになった。
「疲れただろ?あいつらに自主練ギリギリまで付き合わされて」
「え、あ、......少し........」
少しどころじゃないけど、と脳内で付け足す。
「皆さん凄いですね、本当。バレー大好きって感じで、楽しかったです」
「そう?なら良かった」
あんな風に頑張れるものがあるなら、きっと毎日楽しいんだろう。少し、羨ましい。
前より上手く繋がった会話は、バス停が姿を見せたことで途切れた。短いなと感じてしまう私がいて、それにも少し驚いたけど、本当に短いと思った。
1人で待てますよ、と伝えてもサワムラ先輩は首を横に振るから、並んでベンチに座る。
「何分のバス?」
「18分です」
「後3分くらいか」
少ししか待たずに済むからよかったのか、少ししか待たないから悪いのか、よく分からない感情が胸に拡がって、ざわざわする。
「先輩は」
「うん?」
ざわつきを誤魔化すために口を開いて、言葉を続けた。
「優しいですね」
「そうか?」
「言われません?」
「んー、たまに?」
だろうな、と思った。本当に優しいから。全員に優しい、こんな私にも優しい。
その優しさが、私をよく分からなくさせる。
「送ってくれますし」
「そこ?それはまぁ」
とサワムラ先輩は呟いて、その後私の方を向く。真っ直ぐで力強い先輩の視線と視線が合う。
サワムラ先輩が、優しい笑顔で告げた。
「危ないのは本当だけど。俺が、心配するから」
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ちんすこう - 更新しないんですか?凄く楽しみ待ってます。数ある大地さんのお話の中で一番好きです! (2020年5月12日 10時) (レス) id: 9e27674b7b (このIDを非表示/違反報告)
奏(プロフ) - 草さん» 返信遅れてしまって申し訳ありません。そうなんですね・・・!知識不足でした、ありがとうございます。大地さん大好きなので我慢出来ずに書いちゃいました。読みやすいと言っていただけて安心しました。妬いちゃう大地さん難しかったので萌えて頂けてなによりです。 (2019年11月5日 21時) (レス) id: 3e7d8a8bee (このIDを非表示/違反報告)
草(プロフ) - 早生まれは1/1から4/1で、遅生まれが4/2から12/31なので三月生まれの夢主は遅生まれではなく早生まれですね。大地さん夢珍しい上に文が読みやすいです。妬くところ大地さん普通の高校生で萌えました。 (2019年11月2日 23時) (レス) id: 59c85b2532 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏 | 作成日時:2019年9月8日 20時