3 青春ってやつ ページ3
side 紫
時おり、涙を拭いながら。
捲し立てた早口の終わりに、
藤井は躊躇うように言葉切れを悪くした。
出来るだけ抽象的な表現でその件に触れると、
藤井は驚いたような顔をして口をつぐみ、
そうかと思えば突然、
なにかを思い出したかのように立ち上がったから、
藤井の肩にかかったジャージがばさりと地面に落ちた。
「こんな話しとる場合やなかった、
濱ちゃん、
小瀧がさっき、急に苦しそうなって、」
「小瀧?朝居らんかったけど来とるんか?」
「そう、屋上に上がる階段とこ居るから、
─────濱ちゃん、行ったって」
「・・・ちょお待っとけ」
授業時間も終わりに近づいていて、
サブの先生に号令も撤収もお願いすることにした。
指示を出し終えて足早に藤井が居たはずの昇降口の階段を上り切ると、ジャージの上着だけがそこに残されていた。
あたりを見回すと、何故か小瀧が居るはずの校舎を突っ切って正門に向け歩を進める藤井の後ろ姿を見つけた。
「おい、お前はどこ行くねん、」
「・・俺は、帰るから、」
「はあっ?」
急いで呼び止めても、訳のわからない事を振り向きもせずのたまう藤井は、あからさまに投げやりで
余計なお節介と分かっていても口を出さずにはいられなかった。
「また何か揉めたんか、」
大人気ない、挑発的な煽り文句。
二人はまだ幼くて、自分の気持ちを上手く処理することも、相手に伝えることも出来ずにいる。
お互いがお互いを思いやっとる癖に、端から見ればただひたすら、運や他人や、をアテにした不毛な伝言ゲームでもしてる風で。
見てると、手のかかるほど可愛い子供のように微笑ましくもあり
翻っては
───ずっと苛立たしかった。
もっとうまくやれや、って気持ちでもどかしかった。
余所目に見た、これが
青春ってやつなんやろな、多分。
藤井は目算通り、その言葉にこちらに向き直り、敵意を孕んだ目を確かに、一瞬だけ俺に向けた。
けどそれは本当にほんの一瞬で。
「・・・小瀧のこと、よろしく」
一言呟いた後は、もう振り返らなかった。
───────
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まいん(プロフ) - Noさん» ありがとうございます。わざわざコメントまで書いていただいて恐縮です。すみません。そんなふうに言っていただけてこちらこそ本当に嬉しいです。ありがとうございます。 (2021年4月30日 22時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - かこさん» Oh…ありがとうございます(泣)こちらこそ早速ご覧いただき本当にありがとうございます。お待たせしてすみませんでした。 (2021年4月30日 22時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
No(プロフ) - ずっと待ってました>_<本当に嬉しい限りです。 (2021年4月30日 18時) (レス) id: a928634097 (このIDを非表示/違反報告)
かこ(プロフ) - まいんさん» ずっと待ってました( ; ; )更新してくださって本当にありがとうございます! (2021年4月30日 14時) (レス) id: 6e72dd3f11 (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - 名無しさん» お恥ずかしいです。もったいないご感想で恐縮です。そして嬉しいです。私の小説に対してなのか不安になってしまうほどです。何かの間違いでなければ、本当にありがとうございます。 (2021年4月30日 11時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まいん | 作成日時:2019年9月6日 19時