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48 消えない気配 ページ48

side 桃


濱田先生が、よう頑張ったな、て言うてくれた、次の日。
教室には無理して来んでもええけど図書室か保健室か部室か、何やったら職員室でも構わんから登校だけしてくれんか、
あんまりに思い詰めた表情で、家から帰る間際の先生にそうお願いされてまって、首を縦に振るしかなかったおれは久しぶりに正門を潜っていた。ただ例によって大分遅刻しとるのは、その、ごめんなさい。

先生はきっと、おれが学校に行かなければそれだけとうさんと過ごす時間が増えると思ってそう言うてくれた。そう思うと、知られたくないことを知られるというのがどういうことなのか、身に滲みて分かってきて少し辛かった。

この際甘えさしてもらって濱田先生のとこ行こうかな。でも職員室は他の先生も居るし、生徒の人も来るし、保健室もそう。図書室か、部室の方がええかな。部室は駄目か。いつ授業入っとるか判らん。
そんなことを考えながらものすごくのろまなスピードで駐車場を抜け、しんどい時いつも自分を慰めてくれる花壇の花の前で立ち止まる。そして思い出す。名前も知らない花の他に初めて、ここでおれの話を聞いてくれた人のこと。途端緊張とも、気まずさともつかん思いが込み上げた。


「・・・あ、会いたない、なぁ」


それは取り繕いようのない本心で。

先生ごめんなさい、やっぱり、おれ。

自分の情けなさに思わず苦笑い、あと何メートルも無い校舎を前に踵を返す。踏んづけた小枝がパキリと鳴って、不意に顔を上げた。


「・・・誰と、会いたない、って?」


あと少し起きるのが遅ければ。あと少し歩くのが早ければ。

ほんの数日会えへんかっただけで、その声がやけに、懐かしく聞こえるなんて変や。

初めて会話交わしてからそもそも、何週間も経ってへんねんから。

それなのに何で、その声を聞いただけで、
懐かしくて、苦しくて、息が詰まって
涙が、出そうになるの。


やっぱり、来るんやなかった。
帰る道が絶たれたおれは流星の顔を直視出来ひんまま校舎に向かい駆け出した。
足は遅くない。流星も追う理由はない。なのに何で。


おれは馬鹿みたいに教室のある階も通りすぎて、普通のシリンダー錠と、南京錠で二重に施錠された屋上のドアのノブに手をかけて、背後にあるままの気配に行き止まりを知った。




「────っなあ、逃げんでも、ええやろ、」

「・・・っ、は、はな、して」




追いかけて、その後におれに何を言いたいんか、


おれは知りたくなんかないねん。

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まいん(プロフ) - naさん» ありがとうございます。もう忘れ去られてると思ってるので嬉しいです。お時間割いて見ていただいてわざわざコメントまで、本当にありがとうございました。 (2020年5月18日 23時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
na - はじめまして。このお話が本当に面白くて絶対に完結させてほしいです。 (2020年5月2日 4時) (レス) id: 195cac4769 (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - ###さん» ありがとうごさいます。もう本当にそんな風に言っていただけて身に余る程幸せです。短編集も見ていただいて有り難いとしかいいようがありません。浮かれた勢いで調子乗って更新してしまったので、またお時間あるときにでも良ければ見てやってくださいね。 (2019年7月18日 8時) (レス) id: 16d7e0d9f4 (このIDを非表示/違反報告)
###(プロフ) - まいんさん» いえいえ、どの作品も本当に面白くて、私の目は間違ってなかったなと自分を誉めたいぐらいです(笑) 短編集のほうも時々覗いているので気が向けば更新してもらえると嬉しいな〜と思います(..) (2019年7月18日 2時) (レス) id: 643eb217bd (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - ###さん» ###さんいつもありがとうございます(;_;)色々考えながら読んでくださり、ありがとうございます。気になる展開と言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます (2019年7月17日 21時) (レス) id: 16d7e0d9f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まいん | 作成日時:2019年6月24日 23時

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