鉛色の空〈JW青×桃〉

45　理由 ページ45

side 桃




理由を知りたい、
濱田先生はそう言うた。

「何で、来ぉへんの？」

「・・・ぁ、・・」

「質問変えよか？
何が辛いん？」


何が辛いのか。
考えたこともなかったけど。
濱田先生の表情は真剣そのもので、
だから、自分も
真剣にその問いに答える必要がある気がした。


「・・・・・っり、流星」

「・・・うん」

「がっ、学校行くと、
流星が居るから、」

「そらそうよな」

「っ、会いたない」

「なんでや？」


藤井毎日心配しとるで、
濱田先生のその言葉に
自分の中の感情の入れ物が
壊れたような音がする。

「し、っ、心配なんか、
してへん、流星に、おれはっ、きら・・・・
嫌われてっ、
嫌われてまったからっ、」

「何でそう思うねん」



どこまでも優しい濱田先生の声は、
どこまでも優しいフリをした声や。

喋るまで、地獄みたいに続くんやろう。

流星のときみたいに。

死んでも知られたくない秘密、
一人どころか二人の
人に知られてまうなんて
もう、一緒か
一人も二人も。
もうええ。


「・・・な、んでて
当たり前やんか・・・？」


当たり前やんか、
思うたら、涙が出てきた。
はじめてや、
とうさん以外の前ではじめて、
泣いた。


「し、知られたからや、
流星に」


その先どうやって説明したのかを、
覚えてへん。

多分今までの人生で一番、取り乱して
濱田先生に対して
あり得ないような酷い言葉遣いをした気がする。
なんで聞くん、なんで話さなあかんの、
ほんまは誰にも話したなかったのに、
そうやって子供みたいに濱田先生を責めた。
そんなんこれっぽっちも濱田先生のせいやないのに
自分一人ではどうしようもない気持ちをぶつけてまった。


──流星に知られたからや。
──おれと、とうさんのこと。


声がガラガラに掠れて、泣き疲れて、
気付いたら濱田先生の大きな胸の中に居て
よぉ頑張った、て
あの日の流星みたいに
フリなんかやない
優しい声が降ってきた。

汚れてまうって涙声のまま呟いて押し返しても
大丈夫や、そう繰り返し、
ただずっと頭を撫でる手のひらも
シャツに染み付いた煙草の匂いも

何故か優しかった。

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