鉛色の空〈JW青×桃〉

13　回り道 ページ13

side 桃




「・・・流星！」


「ん？」




おれは、今日のことを忘れへん。




「・・・あ、あんな、さっきな」


「うん」



さっきっていつや？って流星は、ちょっと考えるようにおれを見つめながら。




「さっきな。・・さっき、・・・」



でもおれに詳しい説明する余裕が、ないから。




「と、・・・友達、って」


　


あかん、

泣くな。








「友達って・・・・、言うてくれて
嬉しかった」







泣かないように、瞬きを我慢した。


クラスメイトには、笑われてしまった、けど。
流星は、おれを友達、ってはっきり言うてくれて
────ほんまに嬉しかった。



流星は一瞬だけ驚いたような顔になって
けどすぐ、同じ年、同じ男、て思えないほど綺麗に、
大人びた顔で優しく笑う。


我慢なんかしなくたって、もったいなくて瞬きなんかできひん。




「おれな、友達、おらんから」
　
「俺が居るやん」




そんなセリフ、さらっと言えてまう流星はほんまに、
ほんまにかっこええ。




「あんな、いくらでもできると思うで」

「え、な、なにが」

「友達。
小瀧、ええ奴やから」




こんなちょっとの間でええ奴てわかるんは、よっぽどやで、よっぽどええ奴、



流星が続けた言葉ももう
まともに耳に入っては来ん。


そんな優しい言葉を、おれは今まで生きてきて、
かけてもらった記憶がない。





「あ・・・りがと、」






それだけ。
絞り出すんが、精一杯やった。






「真面目やなあ、やっぱ」

「・・・・・きょ、今日はほんまに、ありがとう
引き留めてまって、・・・・ごめん」



「全然。大丈夫や。

またな」





流星は穏やかに笑ったまま
何故か、今来た道に向き直った。
・・・・今来た道？



「流星、」


呼びかけると流星が少しだけ、恥ずかしそうに、取り繕うように笑う。



「家、ほんまは反対側やねん。
でも小瀧が楽しそうに話してくれとったから」



回り道でも楽しかったで、と
ひらひら、手のひらを動かして歩き出す後ろ姿に
今度はありがとうすら言えんかった。


流星が振り返らないように祈りながら、見えなくなるまでその背中を見つめた。

心の奥がじんわり温かくて、泣きそうになってたから。




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