鉛色の空〈JW青×桃〉

24　どっちも心配 ページ24

side 黄



「え、小瀧来てないんですか？」

授業終わりの現国の先生が頷いた。
毎週水曜は何故か決まって保健室顔出すのに昼前になっても一向に姿見せんから
崇裕の心配事もやっぱ小瀧かな、て予感強まって教室まで迎えに行ってしまった。普通逆やけど。

休みか。
病欠かなあ。
こら崇裕が心配するわけやな。




「あ、居った、崇、」

普段殆ど学食の癖に食堂にはおらんかった昼休み
人通りがない校舎端の階段の踊り場に腰掛けて
窓越しに空眺めてるのをやっと見つけた。

・・・煙草吸いたそやなぁ。


「濱田先生、」

「・・・何やねん、忙しくて俺なんか構っとられへんかったんちゃうの」

「そういう言い方すんなや」

「相談事、明日でええよ。
俺もちょっと考えるわ」

「・・・ん、小瀧のことやんな、今日休みやてな」

小瀧は確かに心配やねんけど、俺が急いで崇裕探したんは別にも理由あって。

ここの所職員玄関出るとき、ほぼ100パーまだこいつの靴が残っとる。
生徒のことでなんか悩んどるとき、いつも遅くまで学校に残る癖。
結局殆ど解決せえへんけど、って笑うくせに。

教職で一緒やった頃と同じ。
朝まで俺の家に入り浸って学習指導案何回も書き直した。
模擬授業も他の誰よりこなした。45分間の長さを体が覚えてまうくらいに。
暑苦しいくらいの熱意を母校の生徒達も受け止めてくれて
教育実習終わりには盛大なお別れ会とか寄せ書きとか
晴れて教員として戻ってきた今でもやたら慕われるキャラクターは影で努力しとるからこそ。

情熱はあの頃と少しも変わってへん。



そうなんやけど、

ええことなんやけど
崇裕の体が心配やねん。



「・・・崇裕」

「何や」

「最近、飯あんま食べてへんのとちゃう？」


今朝見た崇裕の顔色が優れんのがやっぱり気になった。

指導要領にも指導案にも教育目標は保健増進、て書いてあるやろ、しつこいくらい。


「あと煙草、吸いすぎちゃう、」


目にかかるほど伸びた崇弘の前髪を手のひらで避けて顔を覗き込むと、崇裕に手首を掴まれた。



「何やねん、そんな近づくと襲うぞ」


「・・・・・っさいな」


「お前ほんま、面倒見ええんも大概にせえよ」


「・・・分かったわ、もう知らん」



冷静になってみたら確か無神経やったかもしれんけど。
そんな風に撥ね付けられるとは思わんくてショックを受けた自分にも二重で驚く。

保健室への道戻りながら、触れられた手首の感覚がずっと残ってるような気がして
苦笑いが零れた。

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