始まりを君に 4th - Daiki.A

192 - 大目に見てあげる - 侑李side ページ47

.



- 侑 李 side



「いなくなったか……」



横断歩道を渡り切って、車が行き交い始めた大通りの向こうを眺めていた。


カフェを出てから敢えて距離をとっていたのは大貴への気遣い。



「いやぁ、我ながらバディ想いの良いやつだよねぇ」



今にも泣きそうだったAちゃんを大貴があのまま帰すとは思えなかったし、別れを切り出したらこうなることは予想済み。


僕がいたら大貴もAちゃんのことを突っぱねるしかないだろうし、邪魔者はさっさと帰りますよ。






空を見上げたらさっきまでの雷雨が嘘みたいに晴れていた。


風が冷たい。



「ふぇっ、くしゅん！」



今年は秋が短くて夏が終わったかと思ったら急に冬が来たみたいに寒い。スマホを取り出しながら駅前の建物の壁に寄りかかる。




“お腹空いた”




メッセージを送ると、すぐ既読が付いて『なに食べる？』って返事がきたからその人に電話をかけた。



涼介『もしもし？ 思ったより早かったじゃん』

「もちろん1人だよ」

涼介『やっぱりな。じゃ、食べに行こうぜ』



当然こうなるだろうと予想してた涼介と合流して食べて帰ることにした。









大貴、自分の素性を明かしたりはしないだろうけど平気かな……


一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど
最後の別れは辛くなる。





店を出る時はまだ悩んでたように見えたけど
一緒にいるのを選んだんだね。









彼女といる時の大貴は昔に戻ったみたいで、見ていてなんだか嬉しいような、むず痒い気持ちになる。


ユキさんが殺されたあの日から、大貴の心の中に黒くて危険な感情が生まれた。親のように慕ってた人を失った悲しみと殺した犯人への恨みと、……


あの事件についてこの数年ずっと調べてきた。
真相に近づく毎、憎しみで暴走しそうになる大貴を止められるか、雄也や涼介と不安になって話をしたこともあった。






でも、Aちゃんと出会ったことで変わったんだ。
もしかしたら変わったんじゃなくて
元に戻っただけかもしれないけど。






涼介『どう思う？』

「なにが」

涼介『別れてこれるのかな……今頃Aちゃんに泣きつかれて困ってんじゃないかな』

「知らないよ、その辺はなんとかしろって感じだな」

涼介『あれ、怒ってる？』










彼女がユキさんの娘だと知った時は呆れたし正直引いた。
でも今は良かったと思ってるよ。






「こんな風に過ごせるのも最後だろうから……大目に見てあげたんだよ」



.

193 - 隠し事なんてもう…→←191 - 点滅する信号に急かされて

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す