「理解」でいいなら苦労しない【H×H】 (ページ2)

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　無事「変な奴」のレッテルを貼られてすぐ、私はこの場所にいる経緯を完全に思い出した。

　それは、授業中の瞬間移動魔法の失敗である。

　なんて情けない！と私は涙目になりながら前髪を握りつぶした。瞬間移動魔法は中級魔法なのに上級生の私は失敗してしまったらしく、別世界に瞬間移動してしまったらしい。本来どこに移動するべきだったんだっけ。

「……んで？とりあえず大丈夫なの？」
「あ、はい。大丈夫……だと思います」

　少年の青い目には呆れの色が浮かんでいた。ハア、とため息をついた少年はスケボーを脇に抱えたまま壁に寄りかかり、そのまま滑るように私の隣に腰を下ろした。「オレ、キルア」

「アンタは？」
「A」

　簡単な自己紹介。この世界にはファミリーネームがないのだろうか。それはかなりありがたかった。なぜなら、私にはないから。そういう身分なのだ。

　そこで思い出した。本来瞬間移動魔法で飛ぶべきだった場所。それは「自分の帰る場所」だ。あの魔法の魔法陣は「本の世界に入る魔法」と似てるんだよなあ、なんてぼんやりと考えていると隣に座っていたキルアくんが「オレ、その辺うろついてくる」と言いながら立ち上がった。

「オレンジジュースには気をつけろよ、A」
「ご忠告ありがとう」

　片手を上げて、彼は背を向ける。オレンジジュースってどういうことだろう。その疑問が浮かぶと同時に、心の中に安堵感が生まれた。よかった、私の知っている飲み物だ。私の知っているオレンジジュースと彼が言ったものが同じものかどうかはわからないけれど、知っている言葉があるだけで安心した。ここまで安心するなんて、思っているより不安がっていたのかもしれない。

　そういえば、自分の見た目の確認をしていなかったな。立ち上がって、自分の身体を見下ろした。なんだ、学校の制服じゃないか。

　学年カラーであるオレンジ色のネクタイに、白いワイシャツ。その上に羽織るは、スカートよりも丈の長いグレーのブレザー。スカートはというと、裾に控えめについているフリルを考慮して膝丈くらいだから、このブレザーは本当に長い。ちなみに私が一番好きなのは、同じく学年カラーの無地スカートだ。

　ローファーも壊れている様子は無いし、白のハイソックスも汚れ一つない。学校にいるときと何ら変わらない恰好だ。

　あとは顔くらいだけれど、視界に入る横髪が見慣れた蜂蜜色だからそこまで心配しなくて大丈夫だろう。