「理解」でいいなら苦労しない【H×H】 (ページ1)

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　意識の浮上を感じて目を開く。途中、雨のようなにおいを含んだ湿っぽい空気が私の嗅覚を刺激した。

「……」
「お、起きた？」

　薄暗い下水道のような場所だった。目の前で私を覗き込んでいる少年が一人。その後ろで品定めをするような視線を向ける人間が多数。皆一様に胸元に数字の書かれた名札を付けている。ぼんやりとした意識のまま自分の左胸に手を持っていくと、固いプレートのようなものに触れた。

　数字が書いてあった。

「……え？」

　数字が、書いてあった。

　ハッと覚醒する。プレート！？数字！？そして一体ここはどこ！？

「あっ、おい、」

　声をかけてくる少年なぞ目もくれず、私は立ち上がって全体を見渡す。突然の私の行動に辺りは若干どよめいてこちらを注視するが、ひどく動揺する私が弱っちく見えたのだろう、すぐに興味なさげに視線をずらした。一人の少年を除いて。

「アンタどうしたんだよ」

　私を落ち着かせるように少年は私の肩を掴む。一瞬振り払おうと手が動いたが、ギリギリのところで思いとどまった。それがきっかけだったのだろう。私はようやく少年の顔をじっくりと見ることができ、自分の呼吸が運動後のように荒くなっていることに気が付いた。

　少年は私よりも少し背が低かった。ふわふわとした白い髪がまず最初に目に留まった。次に、興味の色が浮かぶ大きな青い瞳が目に留まる。友人の飼っていた白毛青目の猫を思い出して、少しだけ彼がかわいく見えた。

　そろそろなにか返事をしなければ。黙ったままの私に、少年は少しだけ眉を潜めている。ごめんね、と心の中で謝罪を述べてから、私は現状況を整理しそれを踏まえた上でこの問いに対する最適な返事を模索した。

　なにかあったら忘却魔法をかけよう。そう決断して、私は口を開く。

「私、うっかりここに来ちゃったみたいなんです」

　少年はぽかんと口を開いて、

「……なに言ってんだ？」

　と言った。想定内だった。