水と黒帽子(3) ページ42
Aside
目を覚ますと、其処は白い空間だった。
ほんのりと薬品の匂いが鼻を掠める。
「あら、目が覚めた?」
「……百合…さん」
私に話しかけてきたのは、ポートマフィア専属医の橘 百合女医。
温かみのある方で、何度もお世話になっている。
そうか。
此処は医務室だ。
「中也くんが貴女を運んできたのよ。此奴等を助けて下さいって」
百合さんが向けた目線の方を見ると、芥川君が寝ていた。
全身に包帯を巻き、酸素マスクまでしてある。
私はと言うと、船から逃げる時に足を挫いたらしく、右足首に包帯が巻いてあった。
「Aちゃんはもう平気ね。戻ってもいいわよ」
「本当ですか……ありがとうございます」
「うん。気をつけてね。中也くんにもきちんとお礼を言ってね」
私は頷くと、右足を庇いながら廊下を歩いた。
自室の扉を開けると、何かが飛びついてきた。
ゴッと私の顎に何かが当たる。
「A様っ!!」
「いっ!る、瑠衣ちゃん」
抱き着いてきたのは瑠衣ちゃん。
えぐえぐと嗚咽を漏らして泣いていた。
「私、私っ!A様が…!し、死 んでしまわれたのかと…っ!もう、もう戻って来ないのかと…!!」
私はその言葉に、肩を揺らした。
『何故…?何処へ行ったの…死んでしまったの……?……っ……もう、戻って来ないの……?』
そう言って泣いた少女がいた。
私と瑠衣ちゃんが、重なった。
私は瑠衣ちゃんを思い切り抱き締めた。
「…ごめん……もう、何処にも行かない。……ちゃんと貴女の元へ帰ってくる………心配させて、ごめんね」
抱き合う私達は、扉の向こうで中也が微笑みながら立っていた事を、知らなかった。
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作者名:コレット | 作成日時:2018年8月4日 20時