紫陽花による薔薇短編集。【BL】 (ページ6)

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一等賞ページ6

ヒヨリ視点
「あ、ヒヨリ、おつかれ。」

すっかり暗くなった競技場にアンジ先生の影を見つける。
先生、やっぱり見に来てくれてた。

「すげーな、お前。短距離も長距離も一位じゃん。」

「俺のこと、なめないでください。」

そう強がってはみたが、本当はずっと怖かった。

全国行けなかったらどうしようって。
走る前だって冷や汗凄かったし。

「えーー？俺の応援のおかげでしょ？」

いたずらっこのようにそう笑う先生。

「ヒヨリーーーーーッ！！！！！！」

走る前にアンジ先生の声が聞こえた。
違う人かもとも思ったけど、やっぱりアンジ先生の声だった。

本気で応援してくれてた。

それが嬉しくて、緊張もすっかりほぐれた。

「まあ、それもあるかもしれないですね。」

「なにそれ、ヒヨリはツンデレなんだから。」

そう言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
この大きい手の温度が伝わってくるみたいで、そのたび心臓の音がはやくなっていって。

「……やっぱり、俺、アンジ先生のこと、好きです。」

一瞬、先生の手が止まった。
でもまた、さらっと一度俺の髪を撫でる。

「いつまで経っても懲りねーな、お前。」

先生を好きになって、もう一年半。
でもまだOKは貰えていない。
勿論、こういう関係だからってのもあるけど。

どう見たって、先生は俺じゃない誰かを向いている気がする。

「男は恋愛対象外ですか。」

俺がそう聞くと、先生は「さあな。」とだけ言った。

「あ。」

俺の足がぴたっと止まる。

「どうした？」

「競技場に忘れ物してきちゃいました。取ってきますね。」

持ち前の俊足で、競技場まで走る。
後ろから「走れーッ」って先生の声が聞こえた。

「はやく、俺の一等賞も奪いにこいよ、ヒヨリ。」