とある科学の人造少女【とある】【上条当麻】 (ページ10)

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八話「とある少年は動き出す」ページ10

「あぅ、ぁ」
　弱々しい少女の声が上条の耳に届いた。平坦で、声にもならないような、小さくて弱い声だった。
「……それにしても拍子抜けです。私の上位互換たる108号が、こんな脆弱そうな個体だったなんて。百聞は一見に如かずとは言いますが、百聞というものもあてになりませんね。ま、どうせこの個体の検査が終了したら機能は私に引き継がれ、旧型は処分されるのでどうでも良いことなのですが」
　僅かな淀みもない、氷のように冷ややかな声。上条の額を、汗が伝った。指先が小刻みに震える。少女と何もかもが瓜二つな日九の不気味さと、日九が何気なく放った「処分」という単語が相まって、上条の理性を確実に抉っていった。
「処分、だと……」
「ええ。処分、です。数多のチカラを束ねる為の器、という役割が無ければ、そこの108号はただの人形に過ぎません。そして、役割を持たぬ人形は我楽多も同然。生かしておく必要など無いのです」
　日九は顔色一つ変えず、さもそれが当たり前かのように振る舞った。細められた日九の目が、上条の瞳に真っ直ぐ問いかける。はやくそれをわたせ、と。
「わ、たしは……しな、なきゃ……いけな、い。まちの、ために……。このまち、を、こわしちゃ、だめ。あなた、も、それは、おな、じ……」
　少女の小さい声が、途切れ途切れ聞こえてくる。日九がその声に気づくと、呆れたように手を振って、子供に言い聞かせるように言った。
「はあ、何をおっしゃるのですか？108号。あなたはこの街を壊すために生まれたのでしょう？全く、中途半端に人の心を作るからこうなるのです。所詮、バケモノが人間になどなれるはずが

「だまって」

　日九の言葉を、鋭い声が遮った。上条が慌てて見回すと、少女が日九の背後に立ち、怜悧な刃を日九の首筋に当てていた。少女の目は大きく見開かれ、殺意を帯びていた。そこで上条は初めて、少女の明瞭な感情を見た気がした。
「空間移動(テレポート)、ですか。舐められたものですね。私があなたの能力の詳細を知っていないとでもお思いですか？私も同じ能力を持っているのですよ？」
　と言うと同時に、日九は少女のふくらはぎにナイフを突き刺した。一瞬だけ少女が力を緩めたのを皮切りに、少女のふくらはぎに太腿に二の腕に、一本二本三本とナイフが突き刺さっていく。少女の体の至る所が、鮮血で染まっていく。しかし、少女は表情一つ変えない。自分が傷つくことを当然のことのように受容して。そんな風に考える少女に対して、上条は無性に腹が立った。

　そしてそれは、上条が動く理由として十分だった。