とある科学の人造少女【とある】【上条当麻】 (ページ8)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:2,152 hit

六話「とある上条は動揺す」ページ8

・
　上条当麻は、ハッキリ言って訳が分からなかった。
　順を追って纏めよう。まず上条は、買い物へ出た帰りに超能力にかかっていた事を自覚し、能力の使用者を探した。そしてその時、買い物ついでに探していた自穀志願の少女を発見し、説得しに行ったら少女の能力と思われる炎によって阻まれたが上条の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)によって破壊された。そう、ここまでは良かったのだ。
　なぜか少女は、自分を殺せと言い放った。
　一点の違和感もない声で。
　一瞬の迷いもない仕草で。
　一片の躊躇いもない目で。
　自分を、殺せと。そう言い放った。

「わたしを、ころしてほしい。一刻も早く。一瞬の猶予もなく。……ころして」

　真剣そのものの目で、少女は上条を鋭く射抜く。
　あまりに突拍子も無い上条は一瞬、冗談を疑った。あるいは、誰かに言わされているのかとも思った。しかし、少女はそれがそんな軽はずみなものでは無いと全身で表していた。瞳はまっすぐ上条を見据えていた。唇は強く引き締められていた。足に震えはなかった。佇まいに矛盾はなかった。少女の発言は、正真正銘本物の、彼女の意思だった。
「……わたしが生きているだけで、世界は。この街は。狂気という名の、見えない炎でやきつくされていくから。この街をほうかいさせて、焼け野原にしてしまうから。わたしの存在自体が、狂気の引き金になってしまうから。この街を救うには、わたしの存在がきえるしかないから。だから。―――わたしを、ころして」
　少女の平坦な声が上条の脳内でやけに引っかかった。…彼女は、何を言っているんだ？狂気という名の見えない炎？焼け野原？狂気の引き金？この小柄で、異様で、異質な少女は一体全体何者なんだ？
「……テメェ、何者だ」
　上条自身も意図しない、鋭く尖った言葉が、口から零れた。しかし、少女は揺るがない。その程度の(・・・・・)棘に、動揺すらしない。
「わたしは、水口能力開発研究所人造少女(ダミーガール)108号。亡き屍の置き土産(モルモットコンピュータ)をたばねる人形。わたしのチカラは、多重能力(デュアルスキル)。学園都市をやきつくすためだけに生みだされた、ニセモノのニンゲン」
　彼女の声色は、変わらなかった。何の違和感も無い、完璧で淀みのない声だった。
　上条の背筋は、凍った。この少女は余りにも異端で、異質だった。
「……お前、自分で何を言っているのかわかってんのか」

「もちろん。わたしがしぬべきなのは。しぬしかないのは。わたしが一番理解している」