とある科学の人造少女【とある】【上条当麻】 (ページ4)

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三話「とある少女の死にたがり」ページ4

「……わたしを、ころして」

　第七学区、病院付近で声を掛けられたのは、とある無能力武装集団(スキルアウト)の青年だった。その物騒な言葉に、青年は思わず振り返る。
「ンだって？」
　背の低い少女が、青年の上着の袖を抓んで俯いている。薄黄緑色にも薄水色にも見える手術衣のような服装をしていて、髪の毛は黒く、長く、ぼさぼさで、そして白髪混じりだった。見た目の年齢は中学生程度にも高校生にも見える。
「……わたしを、ころして欲しいの」
　ガキの妄言か、と青年は判断して、少女を無視する。青年が少女の細い指を振り払って歩き出した。少女の指が、空を掴んだ。その背中を、少女はジッと見つめる。
「なんで、誰もわたしをころしてくれないんだろう」
　少女はぼそりと呟く。そりゃそうだろうと言いたくなるが、彼女はそんな事は知らない。
　何せ、彼女の生い立ちは―――

「研究所生まれの人造人間(ニセモノ)だから、かな」

　そう、彼女は人造人間。研究所で生み出された、正真正銘の人造少女(ダミーガール)なのだ。
―――わたしはわたしをころせないし、誰もわたしをころしてくれない。どうしよう、これじゃわたしが研究所を脱走してきた意味が……！

「お前！探したじゃねーかよ急に飛び降りやがって！めっちゃ心配したんだからな！」

　聞き覚えのある声が、少女の思考に割り込んできた。不満そうな顔をしながら少女が振り向く。その人は、さっきのツンツン頭の青年だった。
「なんで、探してたの」
「そりゃ、お前。目の前に死にそうな人が居たら助けるに決まってんだろ？」
　まるで「お前は邪魔だから来るな」とでも言うような声色の言葉に、青年―――上条当麻は答える。
　少女は、青年を睨めつける。
「わたしはもう、しにかけじゃない。ほら、こんなに元気になってる」
「さっき飛び降りてただろ。心配もするよ」
「わたしは！……心配してもらえるような『人間』じゃない。わたしはしななきゃいけない。この手が。この指が。この足が。この頭が。この『つくりもの』の体が。―――みんなの幸せを壊すから」
　それは感情のこもっていない、氷のような、冷たく鋭い声だった。
「―――ごめんなさい。とにかくわたしは行くから。『空間移動(テレポート)』」
　ぱしゅん、という軽い音と共に少女は消えた。
「なんなんだよ、あいつ……」
　置き去りにされた上条は、困惑したような表情で呟いたのだった。