とある科学の人造少女【とある】【上条当麻】 (ページ12)

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十話「とある少女の勝ち逃げ」ページ12

「そうですか。ええ、下らない。全くもって下らない。そんな綺麗事、世に罷り通るわけありません。私はあなたよりもこの世界の闇を知っています。だから分かります。あなたの理論は全くの糞です。ええ、糞です。あなたは無知です。この街の闇を一切知らない。私達の世界の事を知りもしない癖に、綺麗事を語らないでください。―――虫唾が走ります」
　日九が、上条の言葉をばっさりと切り捨てた。冷たい言葉で、相手の気の緩みを少しだって許さぬ様に。そこには真実味があって、日九の言葉には重みがあった。少女は自分の前に立つ上条へ手を伸ばした。弱々しく、聞こえるのがやっとの声で、上条に語りかけている。
「や……め……わた……し……は……たすけて……ほしく……なん、か……な」
　そこで少女の声が途切れ、上条に向かって伸ばした手ががくんと落ちた。猛烈な痛みで意識がダウンしたのだ。上条ははっと少女の方へ向いた。それに対して日九は狼狽えもせず、「やれやれ」と首を横に振った。そこにあったのはたったひとつ、少女への軽蔑だった。自分より弱い、少女への軽蔑だった。
「全く、これでは機能の引き継ぎに支障をきたすではありませんか。やはり、これ程まで108号が貧弱だったというのは、研究者の方にしても計算外だったようですね。こんなでは学園都市破壊の計画が頓挫し兼ねません。ですがまあ、何とかなるでしょう。研究所の方で修復作業(オペレーション)をすれば問題有りません。では回収しますかね」
　そう言い終わるが早いか、空間移動(テレポート)の風切り音がして、日九の姿が上条の前から少女の傍へと移動していた。日九は少女の首根っこを捕まえて、まるで野良猫をつまみ出す時の様に、ぐったりとしている少女を持ち上げている。少女の頬をペチペチと叩き、「やれやれ、本当に起きませんねぇどうしましょう」と呟く。そのコミカルな動作も、その場の空気を異様にしていた。
「では、私はこれで失礼します。折角108号の為に立ち上がったのに、自分は傷一つ負えず、傷ついた少女が連れて行かれるのをただ棒立ちして見ている。あはは、あなた哀れですね。ええ、同情してあげてもいいですよ。まあ私に情などないのですが」
「待て！そいつを―――」
　最後、日九に向かってそう叫んだ上条に皮肉げに笑って、日九は空間移動(テレポート)を使用し少女を連れて虚空に消えた。
「くそ、あいつ……ッ！」
　上条は拳を強く握りしめ、日九が消えた場所へ視線を送り続けた。そうすることしか、できなかった。