とある科学の人造少女【とある】【上条当麻】 (ページ1)

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序文「とある少女の疑問」ページ1

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　ある夏の日の、深夜の学園都市。

　深い暗闇と深海のような静寂が、建物すら寝静まっているかのような街を包み込む。それはまるで、空一面に黒い絵の具をぶちまけたようだった。
　人々は皆眠りにつき、誰も出歩いていない大通りに、ぴちゃり、ぴちゃりと液体の滴る音が響き渡る。
　その音を発している中心に、一人の少女が居た。
　それは、異様な容姿の少女だった。背は低く小柄で、四肢は枯れ枝のごとく細く、危うい。
　腰より少し下まで伸びている白髪交じりの黒い髪の毛はぼさぼさ、頭にはバンドのようなものを装着し、そこから三本コードが伸びて、少女の体に絡みつく。
　容姿は整ってはいるが、頬や額には赤い血が付着し、右目を隠す包帯は赤黒く染まっていて、詳しい顔立ちなどは全くわからない。
　服装は、ひらひらと裾が揺らめく浴衣かバスローブのような格好だが、薄い黄緑色であることから手術衣なのがわかる。裾や袖は赤黒く染まり、襟や裾や袖からは無数のチューブが引きずられている。チューブからはねっとりとした薄黄色の液体や赤い液体や点滴のような透明の液体が溢れて地面に滴り、ホラー映画さながらの生々しさを演出する。それらが与えるイメージは、手術に失敗した患者のゾンビのようだった。
　全身から血が溢れでていると言うのに、少女の表情は紛れもなく笑っていた。
　ごほごほとせき込む少女の薄く柔い唇と唇の間から、鮮血が零れだす。

「て、れ、ぽーと」

　かすれるような声で、彼女は呟く。
　ぱしゅん、と音が鳴り、彼女はその場から消えた。
　彼女が再び現れた場所は、路地裏だった。近くに学校の寮が密集する地帯の、真っ暗な路地裏だ。
　げほげほ、とまたせき込み、胃酸交じりの血を吐き出す少女。遂に力尽きたのか、膝からがくんと倒れこむ。
　彼女には、酸素が全く足りていないようだった。段々と、段々と、指先から力が抜け始める。

「やっと、しねるんだ」

　少女は自身の尖った爪を首筋にあて、笑ったまま横に一閃した。千切れそうになる意識をつなぎ止め、全身は血塗れで、動く気力すらも残っていないと言うのに、それでも尚凄惨な笑みを浮かべる少女は最後に足掻く。

―――あそこじゃ、しねないから。
これで、「計画」は、とまる。わたしさえ、きえれば。そうすれば、あの計画は……この街は……。

　そう思った瞬間、少女の意識は途切れる。

　大きな間違いを抱えたまま―――。