【募集企画】東方幻想記録物語 28巻 (ページ9)

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虎の子　カイルページ9

「さあ、震えて眠るといいぞ裁定者気取り。あんたが言う罪なんざこの刃が全部ぶった切ってやる」

すっかり希望を取り戻した顔で、神樂は一条刀を振り抜く。その瞳には先刻までの絶望とはなくなっていた。―――カイルは随分と厄介な敵に当たってしまったらしい。
威圧に怯まないこと、これはまだいい。考慮していなかったわけではないからだ。
しかし、自らの罪を目の前にして、一度は心が折れたにも関わらず再起したこと。これが至極面倒だった。カイルが見せる罪は純然たる真実であり、本人も意識的にしろ無意識的にしろ自覚していることだ。だというのにこうして彼女は立ち上がった。
いったい何が彼女の中で起こったのかと独り言を呟きつつ、カイルは神樂の斬撃をすんでのところで避けながら弾幕を飛ばして牽制する。

「まあ、それは考えても仕方のないことです。それよりも重要なのは‥‥」

それは、このままでは押されるということ。
強力な異能を持つものの、カイル自身の身体能力は常人以下だ。今は上手く避けられたが、次も上手く避けられると楽観するほどカイルは愚かではないのである。今のような近接戦闘を続けていれば、いずれはジリ貧になって神樂に押し込まれることは想像するに難くない。打開策は、
①距離を取る
②向こうの戦力を削ぐ
③こちらの戦力を増やす
の三つだ。その中で最も効率的かつ合理的で効果的な一手は③だと、カイルは結論付ける。なぜならば、①はできるのなら既にやっている。距離を取るよりも先に神樂が身体能力にものを言わせて接近してくるのである。②も同様だ。先刻からちまちまと弾幕は飛ばしているが、神樂の攻撃の隙に出せる弾幕の威力などたかが知れている。
そしてなにより、カイルには援軍の心当たりがあった。
したがって戦況を好転させるために打てる策は一つだ。
虎の子の共犯者、その少年を呼び出す。

「さっきからぶつぶつと気味が悪いな、早いとこ真っ二つにさせてもらうよ」

神樂が再び肉薄し刀を加速させる。刃が接近するわずかな時間の中、カイルは携帯電話を起動してあらかじめ開いておいたコール画面から電話をかける。―――そして。

「―――本当に、最悪なのだけれど」

現れたのは黒の蓬髪。砂色の外套が風に舞い、包帯が宙に踊る。
カイルが呼び出した、虎の子の共犯者―――太宰藍良その人がそこにいた。そして藍良がやってきたということは。

「―――ッ！？」

神樂が振り抜かれた刀を手に目を見開いた。
そう、藍良の能力―――ありとあらゆるものを無効化する程度の能力は、この戦局を完璧にひっくり返す。