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ほんの少しだけ余分なエピローグ 照輝 ページ49

幻想の狭間から転送され、視界が一気に開ける。
同時に朱色の光が斜めに差し込んだ。どうやら照輝達が戦っている間に、時刻は日没に迫っていたらしかった。
久しぶりの日光に目が慣れてきたところで、照輝は周囲を見回す。黒い服の死神と、刀を携えた巫女。愛哀と元凶の面々はもう帰ったらしい。

「おお、ヒーローくん。倒してきたかね!」

こちらに気付いた被華がにこっと笑った。残念ながら鼓膜が破れている照輝にはよく聞こえないが、負けず劣らずの満面の笑顔で返す。
そして最後の一人。一条神樂の方へと視線を動かした照輝は、一瞬だけ口を開きかけて、やっぱりやめる。
戦闘中に覚えた違和感が少しだけ邪魔をして、なんとなく彼女には近付きづらかった。

「ああ、おつかれさん、ヒーロー。大口叩いてた割にはボロボロになって帰ってきたじゃない」

けれども神樂はそんなことなど露ほども知らない。彼女らしく軽口を叩きながら、照輝に近付いた。
だが照輝には声が聞こえていない。近付いてくる神樂には気付いていたが、何を言いながらどんな感情で近付いているのかわからなくて、一歩後ずさる。
返事も相槌もしない照輝に何かを察したのか、神樂は仕方のない奴だと言いたげな顔をした。
軽口を続けようとしたが、ふと何かに気付いて、神樂は口を閉じる。
そして一条刀の峰を肩に乗せながら、茜色に染まる幻想郷を眺めて感慨深げに言った。

「まあ、流石ヒーローってとこね」

神樂が夕焼けを背に笑みを浮かべる。
―――その、瞬間。
どくん、と心臓が跳ねた。
それはあまりに唐突で、脈絡なんてどこにもなくて、なのに当然のことのような気もした。
自分でも信じられないくらい突然に、意識が現実から切り離される。
黄金色の空、土の匂い、千切れた雲、吹き抜ける風の冷たさ、朱が射した街並み、うるさいぐらい拍動する心臓、夕日の色に輝く日本刀、ピン止めしたように動かない視線の先の、微笑む少女。
斜陽を吸い込んだような瞳の、放射状の模様の一筋までも。
宵闇を閉じ込めたような黒髪の、風に揺れる一本までも。
自分自身を取り巻く全てが、鮮烈に脳裏に刻み込まれたことを照輝は自覚する。
まるで脳に直接版画を彫っているみたいだ。
どくどくどく、と心臓が早鐘を鳴らす。ただひたすらにうるさかったけれど、それはどうやっても止めようがない。
心臓は更にテンポを上げて鳴る。流れる風は涼やかなのに、今にも発火しそうなくらい顔が熱かった。
次第に視界が揺れて、霞み始める。
照輝が認識できたのは、ゆっくりと意識が遠のいたところまで。
そして、世界はぐるりと回る。

『女神を微笑ませる程度の能力』 照輝→←元通り 舞依



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フウ(プロフ) - 29巻作成しました!こちらからお願いします!(https://uranai.nosv.org/u.php/novel/kazami133513/) (3月2日 22時) (レス) id: b910a0dd1c (このIDを非表示/違反報告)
フウ(プロフ) - 続編移行致します!! (3月2日 21時) (レス) id: b910a0dd1c (このIDを非表示/違反報告)
雨咲(プロフ) - 更新しました! (3月2日 21時) (レス) id: daf5c838c6 (このIDを非表示/違反報告)
雨咲(プロフ) - 更新します! (3月2日 20時) (レス) id: daf5c838c6 (このIDを非表示/違反報告)
愛宮リリー(プロフ) - 更新しました! (3月2日 17時) (レス) id: 234445217d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:サナティ x他3人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/  
作成日時:2023年11月14日 22時

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