【募集企画】東方幻想記録物語 28巻 (ページ37)

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奇跡か必然か、あるいはⅠ　照輝ページ37

「あら？カイルくん、やられちゃったのね」

舞依が戦闘中にあるまじき呑気な声で呟く。
戦況はといえば、照輝が格好良く口上を決めたところでよくなるわけはなかった。いまだ照輝は攻撃を続けているもののダメージが通っている体感はない。むしろ本気の三割も出していないという舞依の弾幕を避けながら戦うので精一杯―――ほぼほぼジリ貧の状態だ。そんな中、照輝は仲間の敵撃破の一報を受けた。

「ですって、ヒーロー志望くん。地に這いつくばったままのあなたとは大違いのようだわ。まあ、私が相手だから仕方ないけれど」

今や飽き飽きするほどに、「勝てるのか？」という疑問が浮かび上がっては消える。勝てるか勝てないかじゃない、勝つのだと照輝は何度も言い聞かせた。それが彼の憧れるヒーローなのだから、と。ヒーローはピンチの時ほど眩く煌めくものなのだから、と。だが、今の状況では誰がどう見たって傷一つ付けられやしないのは明らかである。
客観的な評価と己の理想とのギャップに歯噛みする照輝を他所に、舞依は無邪気な笑顔で言った。

「なんにせよ良かったじゃない。あなたのお仲間はカイルくんを破った‥‥つまり、あなたの方に助けに来るかもしれないということでしょう？」
「―――は？」

さも照輝のことを案じているかのような声色で、女神は宣う。今まさに叩きのめそうとしている相手に向けるにはあまりにも矛盾している―――それこそが神と人の隔絶を表していた。

「なんだったかしら、カイルくんを倒した女の子。神樂とか言ったかしら？あなたと随分親しげだったわよね。宴会にも二人揃って来ていたもの。‥‥だったら尚更助けに来てくれるじゃないの！よかったわね。諦めの悪いあなたと違って聡明そうな子だったから、きっと撤退を勧めるわ。そうすれば生きて帰れるでしょう？私だって愛する生命が無意味に失われるのは悲しいもの」

言い終わると同時に飛んできた弾幕を避け、照輝はその勢いのまま地面を転がる。本当に本気の三割未満なのだろうかと疑わしいほどに不可能弾幕であった。避けさせる気があるのだろうか。
だが、照輝の脳内にそんなツッコミ担当めいた思考ははまるで生まれなかった。弾幕の密度などよりも大事なことがあったからだ。

「‥‥‥‥‥‥‥‥い」