55話 ページ18
─────chinen side
「説明しろよ」
涼介が長い前髪から覗く鋭い目で九谷を睨みつける。
圭人と九谷さんは先に帰っていたようで足の治療もして寝間着姿でみんなで寝泊まりしている部屋にいた。
おばさんには靴ズレがひどいからAの帰りは遅くなると説明して、ひとまず僕達も落ち着くためにお風呂に入った。
最後にお風呂から出た伊野ちゃんが寝室に来たら涼介の目付きが変わった。
「今更苦しい言い訳したって無駄だよ。正直に全部話して。」
僕の言葉に九谷は少しだけ顔を歪める。
まだ自分じゃないと言い訳するつもりでいたのか。
九谷のことももちろんだが、僕は残してきた裕翔とAの方が気掛かりだった。
いつも僕は涼介や裕翔や圭人の後をついて行って…
自分から行動していくことはほとんどなかった。
誰かを見て苦しくなったり愛しくなったりなんてこんなの初めてだったし。
でも、今のままじゃダメなんだ…。
「…あいつが、私を転ばせたから責任もって治療しろって言ったら先に帰っちゃったんだから知らないわよ…」
バツの悪そうにいつもの口調とはまるで反対の言葉で喋る九谷。
「そういう嘘はもういいんだよ。いい加減にしろ」
涼介が涼介じゃないみたいだった。
Aのことを思えば怒り狂いそうだ。
でも、今僕が口出ししたら止まらなくなりそうで怖かった。
「……なんで嘘って決めつけるの…！」
とうとう泣き出してしまった。
大粒の涙を零して手で顔を覆いしゃがみ込む。
「その足…転んでできる傷じゃないよ。
明らかに切りつけたような傷。」
伊野ちゃんが九谷の足を指さす。
確かに、転んだにしては大袈裟すぎる怪我だ。
その言葉に観念したように九谷は大きくため息を吐きぽつりぽつりと話し始めた。
「……つまり怪我は自作自演で知り合いの男にAを襲うように頼んだってこと？」
一通り話し終わったところで大貴が要約して説明する。
話の内容のえげつさにその場にいたみんなが絶句していた。
「そうよ。全部知ってたもの。あいつの中学の時の中島くんとの事も。キスも出来ずに終わってそれ以降男が苦手で避けて生きてきたこともね。」
「……Aちゃんがハジメテなのも？」
伊野ちゃんの言葉に当たり前でしょなんて吐き捨てる。
「よくそんなこと出来たな。お前らはどんだけAのことを追い詰めたかったんだよ」
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作者名：にゃむ | 作成日時：2019年1月15日 22時
