朝川くんのバレンタイン１ ページ6
2月14日、期待なんてしていない。
相手にされないことにはもう慣れたつもりだから。
「Aちゃん、今日、一緒にランチでもどうかな？」
「Aさん、仕事が終わったら一杯行かない？」
「有名レストラン予約出来たんだけど、この後どう？」
「Aさんが好きそうなお店見つけたんだけど…」
朝から、何かを期待している男たちがAさんを誘う。
もう何人目だかわからないくらい。
唯一の救いは、Aさんが全部断っているということ。
薫「なんであんなにモテるんだろうな」
千「モテ要素しかないじゃん」
薫「ベタ惚れだな。おまえもどっか誘ってみれば？」
千「無理だよ」
Aさんを誘うあのパイロットたちみたいに
連れて行けるようなおしゃれなお店なんて、知らない。
＊『あれ、今日はもう実習終わったの？』
薫「はい。ちょうど帰るとこです。Aさんはどこか行くんですか？
随分お誘い受けてたみたいですけど」
＊『あー…行かない行かない。行くわけないじゃない』
行くわけない。
それは嬉しい反面、誘う余地もないことを痛感する。
俺が誘ったところであの人ｔちみたいに
断られるのは目に見えてる。
あー、なんか今日、珍しくネガティブかも。
＊『千空くん？今日は大人しいけど、どうかしたの？』
千「えっ！？…いや、別に何も」
＊『ならいいけど。じゃあ、お疲れ様』
千「あ、はい…お疲れ様でぇす…」
コツコツとヒールを鳴らしながら去って行く。
Aさんの後ろ姿に小さく手を振る。
いつ見ても、後ろ姿さえ凛々しくて、綺麗。
薫「お疲れ様ですじゃないだろ」
千「有名レストランでも断ってんだよ！？
俺が連れて行けるのファミレスくらいだし」
薫「いつもグイグイいくくせに今日はどうしたんだよ」
千「さすがの俺も、朝から何人も玉砕してる人たち見てたらさぁ
ダメージくらうってぇ…」
薫「………あ、戻ってきた」
薫が指さした先には、行ってしまったはずのAさん。
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作者名：くろねこ | 作成日時：2020年2月11日 16時
