００７ ページ37
昔々のその昔＿＿というほどのことではない、ほんの十年前の話だ。あるところで、一組の夫婦が、その関係に終焉を迎えた。夫一人、妻一人。合わせて二人。かつては周囲の誰もが、幸せになると信じて疑わなかった、そんな二人だったが、結局のところ、二人が婚姻関係にあった期間は十年にも満たない、短いものだった。
いい悪いの問題じゃないと思う。
そういうパターンだって、普通だ。
その夫婦に幼い一人息子がいたことだって普通だ＿＿聞くに堪えないような問答があった末、その一人息子は、父親の方に引き取られることになった。
最後は泥沼のような状態で、終焉というよりは破綻、あと一年でも同じ屋根の下で暮らしていたら、それこそ殺し合いにでも発展していたのではないかと思われるほど、行き着いてしまった夫婦＿＿母親は父親から、二度と一人息子とは会わないことを、誓わされた。法律は関係なかった。
半ば無理矢理誓わされた。
しかし一人息子は考えた。
本当にそれは無理矢理だったのだろうかと。
同じように父親から、二度と母親とは会わないことを誓わされた一人息子は考えた＿＿あれほど好きだったはずの父親をあれほど嫌いになった母親は、ひょっとすると、自分のことも嫌いになってしまったんじゃねぇかと。
そうでないなら、どうしてそんなことを誓えるのか＿＿＿半ば無理矢理というなら、残りの半分はどうだったのか。けど、それは自分にも言えることだった。二度と会わないと、そう誓ったのは自分も同じだったから。
そうなのだ。
母親だからといって。
一人息子だからといって。
関係に永続性なんて、あるはずがないのだ。
無理矢理だろうがなんだろうが、誓ってしまった言葉は、もう取り消せない。自分が自ら選び取った結果を、能動態でなく受動態で語るのは、恥知らずのすることだった＿＿一人息子はそういう教育を、他ならぬ母親から受けていた。
父親に引き取られ。
母親の苗字を捨てさせられ。
けど、そんな思いも＿＿風化していく。
そんな悲しみも、風化していくのだ。
時間は、誰にでも、平等に、優しいから。
残酷なくらいに優しいから。
時が過ぎ、九歳から十一歳になった一人息子。
驚いた。
一人息子は、自分の母親の顔が、思い出せなくなってしまった＿＿いや、思い出せなかったわけではない。その顔ははっきりと、思い浮かべることはできる。しかし＿＿それが母親の顔なのかどうか、確信が持てなくなっていたのだ。
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灰猫(プロフ) - 紅茶さん» 紅茶さんコメントありがとうございます！お返事遅くなってしまい申し訳ありません(＞＜) Twitterですが、アカウントを作り次第わたるマイマイ其の参の方にリンクを貼らせて貰いますのでもう少々お待ちくださいませ！！ (2020年4月28日 0時) (
レス) id: cd0e1b19a2 (このIDを非表示/違反報告)
紅茶(プロフ) - Twitter教えていただきたいです！都合上いいねとフォローしかできませんがそれで良ければお願いします！ (2020年4月4日 19時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - しのみやさん» しのみやさんコメントありがとうございます！これからも是非楽しく読んでやって下さい(*^ ^*) (2020年3月31日 23時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
しのみや - 化物語も歌い手さんも好きなのでとても楽しく見させてもらってます！ (2020年3月31日 18時) (レス) id: 5d97f4e4ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：灰猫 | 作成日時：2020年3月29日 14時
