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「この子が浦田って名前になったのは、つい最近なんだ。それ以前は、高橋だったって」
「高橋? へえ、高橋かあ……なるほど、それで渉か。はあん__ったく」
アホ臭い。
歌詞さんはぼそっと、そう呟いた。
独白ではあったが__私に向けた言葉だった。
「もういいや、どうでも。この町は本当に面白いよ、実際。あっちこっちが雑多坩堝だな。どうやらこの町からはなかなか離れられそうにないや……じゃ、詳細はツンデレくんに言っとくから、Aちゃん、聞いておいてね」
「ん。あ、ああ」
「もっとも__」
歌詞さんは皮肉めいた口調で締めた。
あの薄笑いが、目に浮かぶ。
「ツンデレくんがそれを素直に教えてくれればいいけどね」
そして__通話終了。
歌詞さんは決して、別れの言葉を言わない男だった。
「……というわけだ、浦田くん。なんとかなりそうだぞ」
「印象としては、あんま、なんとかなりそうな会話じゃなかったが」
やっぱり聞いてはいたようだ。
まあ、私の台詞を聞いていただけでは、肝心なところは何もわからないだろうけど。
「それはともかく、阿良々木」
「何だよ」
「おれは腹がへってるぞ?」
「………………」
だからどうしだ。
私がうっかり果たすべき義務を果たしてないことを、気遣って遠回しに教えてくれているみたいな言い方してんじゃねぇよ。
とはいえ、そう言われてみれば、そうだ、蝸牛のことがあって有耶無耶になっていたが、考えてみれば、浦田くんには昼ご飯を食べさせてない。相川もそうだった……あいつの場合、歌詞さんのところに行く前に、一人でどこかで何かを食べている可能性がないでもないが。
あー、気が回らなかったな。
私は今、割りと食べなくても平気な身体だから。
「じゃ、相川が戻ってきたら、どっか食べに行こうよ。って言っても、この辺、家しかないから__別にきみ、お母さんの家以外なら、どこにでも行けるんでしょ?」
「ああ。行ける」
「そっか。じゃ、相川に訊けばいいか__一番近い食べ物屋くらい知ってるでしょ。で、きみ、何か好きな食べ物とかあるの?」
「食べ物ならなんでも好きだ」
「ふうん」
「阿良々木の手も旨かったぜ」
「私の手は食べ物じゃない」
「謙遜すんなよ。旨かったのは本当だ」
「………………」
ていうかきみは多分、マジで私の血肉、少なからず飲み込んじゃってるから、その発言はかなり洒落にならないぞ。
カニバリズム少年。
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灰猫(プロフ) - 紅茶さん» 紅茶さんコメントありがとうございます!お返事遅くなってしまい申し訳ありません(><) Twitterですが、アカウントを作り次第わたるマイマイ其の参の方にリンクを貼らせて貰いますのでもう少々お待ちくださいませ!! (2020年4月28日 0時) (レス) id: cd0e1b19a2 (このIDを非表示/違反報告)
紅茶(プロフ) - Twitter教えていただきたいです!都合上いいねとフォローしかできませんがそれで良ければお願いします! (2020年4月4日 19時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - しのみやさん» しのみやさんコメントありがとうございます!これからも是非楽しく読んでやって下さい(*^ ^*) (2020年3月31日 23時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
しのみや - 化物語も歌い手さんも好きなのでとても楽しく見させてもらってます! (2020年3月31日 18時) (レス) id: 5d97f4e4ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月29日 14時