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正直言って、もっと遠くまで__いっそ沖縄とかくらいまで来たつもりでいたけれど、こんな風にたまたま相川に出会ってしまったということは、当たり前だけれど、自転車くらいじゃ、住んでいる町からは出られもしないと言うことだろう。それは正に、牧場のごとく。
あーあ。
免許でも取ろうかなあ。
でもやっぱ、卒業してからだよなあ。
「相川は? 慣らしって言ってたけど、なんだ、じゃあ、リハビリの散歩ってわけ?」
「慣らしというのは服の慣らしだよ。Aさんはそういうの、しないのかな? 靴の慣らしくらいはするでしょう。まあ、平たく言えば散歩というわけだね」
「ふうん」
「この辺りは、昔、僕の縄張りだったの」
「…………」
縄張りって……。
「ああ、そういや、お前、二年生のときに、引っ越しているんだっけ。何、それまで、この辺りに住んでいたってこと?」
「まあ、そういうこと」
そういうことらしかった。
なるほど__ということは、単に散歩とか、服の慣らしと言うよりも、本質的には、自信の問題が解決したゆえに、昔を懐かしんで__ということもあるだろう。なかなか人間らしい行動を取るじゃないか、こいつも。
「久し振りだけど、この辺りは__」
「どうした。全然、変わらないってか?」
「いや、逆。すっかり変わっちゃった」
すぐに答えた。
既にある程度、散策は終わっているらしい。
「別に、そんなことでセンチメンタルな気持ちになったりはしないけれど__でも、自分が昔住んでいた場所が、変わっていくというのは、どことなく、モチベーションが削がれる感じがするね」
「仕方ないことじゃないの?」
私は生まれたときからずっと同じ場所で育っているので、相川が言うような感覚は、正直、全くわからないけれど。田舎と呼べるような場所も、私にはないし___
「そうだね。仕方のないことだよ」
相川は、意外なことに、ここではろくな反論もせずに、そう言った。この男が何か意見めいたことを言われて反論しないなんて、珍しい。あるいは、私とこの話題を続けても、何ら得るところはないと思ったのかもしれない。
「ねえ、Aさん。そういうことなら、隣、構わないかな?」
「隣?」
「あなたとお話がしたいな」
「…………」
こういう物言いは、本当に直截的なんだよな。
言いたいことややりたいことは簡単明瞭。
まっすぐ、ど真ん中。
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名無し16825号(プロフ) - ありがとうございます!これからも楽しみに待たせていただきます! (2020年3月28日 9時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - 名無し16825号さんコメントありがとうございます!そう言っていただけてとても光栄です!この二人が付き合うかどうか等も今後の更新で分かりますので、ゆっくりですが今後も気長に更新を待っていただけると嬉しいです! (2020年3月28日 5時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - ところでこの二人付き合うんでしょうか?(( (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - すごく続きが気になります!面白かったです更新頑張ってください! (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月26日 1時