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「……ていうか、意地張ってんじゃないよ」
「意地なんて張ってねえよっ」
「張ってるじゃん」
「ていっ! 喰らえっ!」
言ったと思うと、浦田くんは私の身体に向けて、全体重を乗せたハイキックを喰らわせてきた。とても小学生とは思えない、背筋に一本棒を通っているかのような、綺麗な姿勢での蹴りだった。だがしかし、悲しいかな、小学生と高校生とでは、身長差というものが、歴然としてある。
この差だけは埋めようがない。顔面に決まっていればあるいはということもあったかもしれないが、浦田くんのハイキックは、精々、私の脇腹辺りにヒットするのがやっとだった。無論脇腹にだってつま先が入ればダメージはある、しかし、それは我慢できないほどの質量ではない。
私はすかさず、浦田くんの足がヒットした直後に、両腕でかかって、その足首、ふくらはぎの辺りを抱え込んだ。
「しまった!」
浦田くんが叫ぶが、既に遅い。
私は、片足立ちで不安定な姿勢になったところの浦田くんを、容赦せず、畑で大根でも引き抜くかのような形で、思い切り引き上げた。柔道で言う一本背負いのフォームだ。柔道では足をつかむのは反則だが、これは試合ではなく実戦だ。そのまま一気に背負いあげる。
が、身長差がここで、逆ベクトルに作用した。身体が小さい浦田くんは、地面に叩きつけられるまでの滞空時間が、ほんのわずかに長かった__ほんのわずかに。しかし、そのほんのわずかに、わずかの間に、浦田くんは思考を切り替え、自由になる手で、私の髪の毛をつかんだのだった。
腰の辺りまで伸ばしている髪__浦田くんの短い指でも、さぞかし、つかみやすいことだろう。頭皮に痛みが走る。反射的に、浦田くんのふくらはぎから、私は手を離してしまった。
そこを逃すほど、浦田くんは、甘い少年ではなかった。私の背に乗ったまま、地面への着地を待たず、くるりと、私の肩甲骨を軸に回転し、そのまま頭部への打撃を繰り返した。肘鉄だった。しかし__浅い。
両足が地面についていないから、力の伝導が平生通りにいかなかったのだ。年齢の差、実践経験の差が、もろに露呈したのだった。決着を焦らず、落ち着いて一撃を繰り出せば、今ので決まり、今ので終わりだったろうに。そしてこうなれば、私の反撃のシーンだった。必勝のパターンだ。
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名無し16825号(プロフ) - ありがとうございます!これからも楽しみに待たせていただきます! (2020年3月28日 9時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - 名無し16825号さんコメントありがとうございます!そう言っていただけてとても光栄です!この二人が付き合うかどうか等も今後の更新で分かりますので、ゆっくりですが今後も気長に更新を待っていただけると嬉しいです! (2020年3月28日 5時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - ところでこの二人付き合うんでしょうか?(( (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - すごく続きが気になります!面白かったです更新頑張ってください! (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月26日 1時