【アイナナ】近くて遠くて (ページ2)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:1,899 hit

Lesson.1 ページ2

大きくなったら何になりたい？

そんな単純な問いかけに、私達は無邪気に答えてた。

"ゼロみたいなアイドル"

"ケーキ屋さん"

"お嫁さん"

叶うといいね、と笑いあったのが、昨日のように思う。

手の届く距離にいたのに、今はもう届かない。

手も、想いも。

♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

目覚ましがなって、目が覚めた。すごく幸せな夢を見ていた気がする。

気持ちが上向きになるような、そんな夢。

いつもより目覚めがよくて、ベッドから身体を起こすと、大きく伸びをした。それから立ち上がって、洗面所へ向かった。

私の部屋から洗面所に向かう時には、リビングの前を通るんだけど、そこで私はあり得ないものを見てしまった。

「え、なんで……」

パチパチと瞬きを繰り返しても、目の前の人達は消えなかった。

「おー！おはよう！」

「おはようございます」

「…………」

掛けられる言葉は、以前と全く変わりなく。

私は反応に困って、見なかった振りをして、洗面所に急いだ。

きっと、幻だ。

水栓を下ろして、顔を洗う。バシャバシャと何回も洗ってると、背後から、豪快だなーという感心したような声が聞こえてきた。

タオルで水気を拭き取ると、私はくるりと振り返る。

やっぱりそこには見慣れた、懐かしい顔。

「A、久しぶりだな！」

そう言ってニカッと歯を見せて笑うのを見るのが、本当に久しぶりで。

私は無意識に、その人にタックルする勢いで、抱きついた。

うおっ、と驚いた声と、受け止めてくれた腕は、懐かしくて、さっき洗ったばかりなのに、顔が凄い勢いでぐしゃぐしゃになっていくのがわかった。

「泣き虫なのは相変わらずですね」

「っ、だって…っ」

はぁ…と溜息混じりの声に、私は顔を上げた。

三月に、一織。

また、会えた。

更にボヤけてきた視界に、呆れたような一織の声と、優しい三月の声。

夢を見ているような、そんな気がした。