Guilty (ページ44)

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楽しいページ44

ピアノを弾いて楽しいと感じたのは何十年ぶりだろうか。
幼いころはそれなりに好きだったのに、いつの間にかそれが義務化した。
コンクールや発表会に出るわけでもないのに、ひたすら曲を弾き続けてきた。
講師は短大上がりのピアノの先生から、大学教授へと変わって言ったしテクニックを重視されたものへ選曲がなされていった。
ただ、そのおかげで、一年に何度か気分が落ち込んだり、イライラするとこうしてひたすら弾くことでその気分を解消できているのも事実だ。

「久々に弾いたら楽しいな。」

名残惜しそうに子犬のワルツを弾き始めた。
ユノらしい選曲だ。

「牧野さん落ち込んでるの？」

「どうして？」

「僕も落ち込むと暗いピアノ曲聞くから、もしかしたらって思って。」

ユノが子犬のワルツを弾き終わって別れの曲を弾きだした。

緩やかなメロディーなのにこれが別れの曲ってすごく不思議だと昔から思っていた。

自分との共通点を感じてなんだかむず痒い感覚になる。

「正直、ちょっと…。」

「そっか。そういう時もあるし、無理して気分を上げなくてもいいでしょ。」

ユノの指が止まった。

「ちょっとスッキリした？」

にこりと笑いかけられてなんだか気恥ずかしさがこみ上げてきた。

「はい、大分。」

「良かった。」

そこまで言うと立ち上がって扉に向かって歩き出した。

「あ、そうだ。」

ユノが足を止めて振り返った。

「すっぴんも可愛いですね。じゃあ…。」

自分がすっぴんなのに今更気が付いた。

すっぴんに眼鏡に、汗で張り付いVネックのカットソーにデニムパンツ。
母が見たら目を背けそうな格好だ。

折角いい気分なのだから母のことは思い出すのをやめた。

このままの気分で帰宅するのも嫌でもう一曲だけ弾いて帰ろう。

リストの愛の夢を。