彼は誰時 (ページ8)

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まだ私の髪に触れたままの手と、まるで愛おしいものでも見つめてるんじゃないかって勘違いしそうになる視線。

どうしようもなくそれから逃れたい、そんな衝動に駆られる。

ジョングクさんの視線を感じると、心臓を誰かにぎゅって握られたみたいに胸が苦しくなった。

『ジョングクさん、水が出しっぱなしに』

"出しっぱなしになってますよ"

その言葉は、発せられることなく飲み込んだ。いや、飲み込まざるをえなかった。

一気に縮められた距離に、ジョングクさんの匂いが濃くなる。

水を流し続ける水道に伸ばされた私の手は、ジョングクさんの手に絡め取られた直後、

『これは』

「慰めたの、また悲しそうな顔するから、それだけ」

ジョングクさんは、"慰め"なんて名前を付けたキスをした。

まだ至近距離にあるジョングクさんの唇が視界に映り込んで、私の体温を一気に上げる。

怒りと悲しみが、自分の気持ちすら分からなくなるくらいにぐちゃぐちゃになって込み上げる。

『それだけって、そんなっ』

そんなのあんまりだ、そう言って彼を責めようとした。

でも、出来なかった。

強引にキスをしてきたのはジョングクさんの方なのに、人目に映った彼は見ている方が苦しくなるくらい、切ない表情を浮かべていたから。

ねぇ、どうして？

それだとまるで、私よりジョングクさんの方がさっきの言葉に気づ付いてるみたいだよ。

「ごめん、全部忘れてくれていいから」

出会ってから初めて、目の前の彼を馬鹿だと思った。

そんな簡単に忘れろなんて、勝手だよ。