彼は誰時 (ページ30)

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「ヒョン、ありがとうございました」

「いいのいいの」

私に対して無言のジョングクさんに腕を引かれて、テヒョンさんのお家を出ると、玄関までテヒョンさんが出てきてくれた。

私と目が合うとニカッと笑ったテヒョンさんは、小さく手招きして、体を傾けた私の耳元にずいっと寄る。

"ジョングギをよろしくね"

その言葉に、なんだか照れくさくて何も言えずにただ首を縦に振る。

そんな私を見てテヒョンさんは満足そうに頷く。

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『ジョングクさん…？』

帰り道、変装のためかキャップとマスク姿のジョングクさんに話しかける。

それでも前を向いて歩き続けるだけで、返事はない。

『怒らせちゃいましたよね、私』

ちらっとジョングクさんの様子を伺うけど、表情はキャップに隠れて見えない。

黙って家を出てきたのは良くなかったよね。今更ながら自分の行動を反省する。

「…確かに怒ってるよ、でもそれ以上に心配した」

静かに話し出したジョングクさんは、こちらを見てはくれない。

「Aになんかあったんじゃないかって、でも携帯とか何も持ってないし、家を空けたらAが帰ってきても家に入れないし」

いつもより早口で言葉を並べるジョングクさんに、どれだけ心配してくれていたのかが痛いほど伝わってくる。

「直ぐにでも飛び出して探したいけど、Aが出ていきたかったんだったら探したら駄目なのかもしれないって思って」

『そんなこと……っ』

ジョングクさんは、私がこんなに勝手なことをしてもただ怒るんじゃなくて私のことを考えてくれる。

そんな優しさにまた好きが溢れだしそうになった。

「昨日だって、自分だけ言いたい放題言ってどっか行っちゃうし」

『それは、合わせる顔がなくて…』

「俺だって話したいことあったのに」

つんとした言い草に、拗ねた子供みたいなムッとした表情がマスクの上からでもよく分かる。

「今度こそ逃げないで聞いて」

『はい…』

気持ちが重い。

今度こそ逃げられない。昨日は言い逃げをしてしまったんだから、今日はちゃんと話さないと。

それがどんな結果になろうと、ちゃんと向き合おう。

ジョングクさんの家までの道のりが、果てしなく長く感じた。