彼は誰時 (ページ1)

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目を閉じる。

波の音が耳の中で留まるような感覚に酔いしれて、ゆっくりと手足の力を抜いた。
沈みかけた太陽の光が、波の隙間から僅かに届く。

あぁ、やっと、私は自由だ。

ふと思い返せば何も無い人生だった。

山もなく谷もなく、平凡過ぎる、普通すぎる毎日。
そんな毎日に飽き飽きして、息苦しくて、もがき苦しんでも沈んでいくばかり。

いつからだろう、何処かの誰かが喉から手が出るほど欲しがる命から、逃げたくなってしまったのは___

気づいたら海に来ていて、
気づいたら海の中にいた。

段々と頭の中が朦朧としてきて、意識が遠のいていくのを感じる。

それに抗うことも無く、水に包まれる。

意識が途切れる直前、水とは違う暖かい何かに触れたようなそんな感覚に包まれて、この期に及んで何故だか少し幸せを感じたような気がした。

それでも体は言うことを聞く訳もなく、その正体を知らないまま、今度こそ意識を手放す。

神様どうかお願いです。
今度目を覚ました世界は、もっと暖かいもので溢れていますように。