私の客を取らないで【鬼滅の刃】

逃亡卅壱 ページ32

ずっと佇んでいた。

言葉の意味が理解できなくて。


どうしてそんなことを言うの？
最後のお別れみたいです、やめてください。



私は、堕姫様のこと今も大好きなんです…。



自問自答するうちに涙が溢れて止まらない。
私涙脆いんです。助けてください。



これは夢だよって誰か言って？？？

言ってくれたら私何でもします……。


「うぅ……うっ、だきさまぁ……」


泣きながら歩いた。

切見世に向かって。
だってどうしたらいいのかわからないんだもん。



こんなぐしゃぐしゃになった顔で雛鶴さんと会うのも申し訳ないと思ったよ？


切見世についても涙は止まらなかった。



けれど雛鶴さんしかいないはずの切見世から、話し声が聞こえる。


耳を澄ますと、男の人の声が聞こえた。


「本当に大丈夫だな」


「はい…お役に立てず申し訳ございません…」





雛鶴さんと、………天元様…？？？


どうして？切見世に天元様が？
やっぱり堕姫様を狙って此処に侵入したんだ。





危ない。
先程堕姫様が怒鳴ってくれなかったら、きっと天元様と鉢合わせていた。




「もうお前は何もしなくていい。吉原を出ろ。わかったな」




天元様がそう言って、雛鶴さんがこの切見世から逃げ出した。

フラフラだったけれど、死ななくてよかった…。






そして、


堕姫様の優しさに鼓動が早くなる。
きっと時間を稼いでくれてたんだ。


このタイミングを見計らって。


会いたい。会ってお礼を言いたい。

堕姫様のことを思い出すと涙が止まらない。
しゃがみこんで泣きじゃくる。


「うっ……ぐす……」



どうしよう堕姫様にこのまま会えなかったら。
会いたい会いたい会いたい。

会いたい気持ちが膨らんで爆発寸前。















「誰に泣かされた？」






「うっ……だ、だきさまぁ………」





あれ……私今、誰と喋った？

咄嗟のことで気にしていなかった。





「待ってろ。俺が仇を討つ」




低い声でそう言われ、頭を撫でられた。
その手は懐かしい、幼い頃の天元様の手の温かさと似ていた。




「天元、様……？」


恐る恐る目の前を見る。

隊服のようなものを身にまとった天元様がそこにいた。





「お前もここを出ろ。」







低いトーンで言われたので怖かった。

怒っているんだ。







違う、勘違いです。これは勝手に私が泣いているだけで。









「天元様っ、こ、これは、ちが…」









言い終わらないうちに天元様が消えた。

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