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『半分払うから!』
「いいよ、誘ったのは俺なんだし。」
『で、でも…』
「じゃあ今度こっちきた時また飯行こ。そん時はAの奢りってことで。」
勝利の押しに負けて、結局全額払ってもらうことに。
確かに勝利と私の収入は雲泥の差かもしれないけど…。でも、一度言ったら最後まで曲げないのが勝利。それをわかってたから私も早めに手を引くことにした。
『ご馳走さまです…。』
「いいえ。駅まで送ろうか?」
『大丈夫。歩いて2分くらいだし。』
「そっか。じゃあ、俺ホテル戻るね。」
『うん。研修、頑張ってね。』
駅とは反対方向を指差す勝利に、私はありきたりなことを返す。
またね、と手を振って旧友に会えた喜びを噛み締めると同時に、別々の道に進んだ勝利が何だか大きく見えて少し萎縮してしまう気持ちが私を渦巻く。
そんな思いを胸に、くるりと駅の方を向き、歩き始める。
「A!」
そのとき、背後から勝利の声がして、振り返った私は再び彼と目が合う。
何年経っても変わらない大きな瞳が私を捕らえた。
『ん?』
「迷ってるお前に、ひとつだけ俺から言いたいことがある。」
『何?』
少し離れてるから声を張って話しているけど、ざわついているからか、周りの人たちは私たちに気を止めることはない。
「不倫は、人を幸せになんてしないよ。」
風が大きく吹いて、
勝利の言葉が突き刺さるように私の耳を貫いた。
『……』
何も返す言葉が見つからず、その場で突っ立って黙りこんでしまう私。
どこか冷たく、そう言い放った彼は、私の様子を見て小さく手を振ると、背を向けて歩き出してしまった。
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迷っているわけじゃない。
ただ、離れると決心したはずなのに、
旧友と再会して思い出すのは楽しかった日々。
ずっと封じ込めてきた大学時代の話を勝利が掘り起こすたびに、健人との思い出が鮮明に呼び戻されて。
あの頃には戻れないのかな。
なんて、風磨にひどいことを心の隅で思ってしまった。
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ichigomaple(プロフ) - えっえっえっ、caming soom、、?えっ、、えっ、?笑 (2021年12月15日 1時) (レス) @page41 id: 2d8d4d0b71 (このIDを非表示/違反報告)
m - コメント失礼致します。こちらの作品は少し前に執筆されているようで今更ながらですが読破させて頂きました。涙が止まりませんでした。はらはらどきどきした思いと愛について深く考える事ができました。これからも舞子様の作品を楽しみにしております。 (2021年9月1日 4時) (レス) id: ea118f12f8 (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - コメント失礼します。主人公に感情移入してしまい、泣いてしまいました。占いツクールでこんなに泣いたのは舞子さんの小説が初めてです。完結おめでとうございます!素敵な小説に出会えてとても嬉しいです。ありがとうございましたm(_ _)m (2020年5月15日 21時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
maron(プロフ) - 初めまして。凄く感動してドキドキしました。本当に実話であるんじゃないかってくらいお話上手で入り込めます。本当に良かったです。 (2019年10月25日 13時) (レス) id: c5d9cde9db (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - 舞子さん、いつもコメントさせていただいていました!完結おめでとうございます!本当に今まで歓喜あまって泣いてしまうとかあってほんとに切ないとこもあったけど、ほんとにこの作品はダイダイダイ好きです。これからも応援しています(^^)ありがとうございました(^^) (2018年11月25日 3時) (レス) id: a3d65aa3c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:舞子 | 作成日時:2018年3月16日 21時