誘愛。3 (ページ4)

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＊

『美味しい…。』

昼下がりの太陽が木漏れ日のようにカーテンからその姿を覗かせる。

眠気覚ましのために淹れた珈琲が口の中に広がり、思わずそう声が漏れた。

時計の針を見たら、さっきから5分しか進んでいない。
今日だけで何度あの文字盤を眺めたんだろう。
落ち着かせるための珈琲はあまり意味をなさなかったみたい。

今日は彼がお義姉さんに会いに行くと言っていた日。

“ 待っていてほしい ”

彼はそれ以上言葉を続けなかった。

わたしが知らない、二人の過去。

彼が自分を押し殺してでも守りたかった存在。

中島さんにも、涼介さんにも想われている希さんという人は本当に素敵な人なんだろう。

そんな人を傷つけるようなことをしていたわたしは、本当に愚かだと思う。

考えれば考えるほど、中島さんがわたしと向き合うと決めてくれた理由がわからない。

久しぶりに会った初恋の人を前に、彼は本当に気持ちにケリをつけられるのだろうか。

過ぎて行く時間がわたしの不安を掻き立てて、でも、待つしかできないことへのもどかしさで潰されてしまいそうだ。

二杯目のコーヒーに手を伸ばそうとしたとき、部屋の呼び出し音が流れる。

あれ、今日宅配便の予定なんてあったっけ。
オートロックのインターホンに近づきながらそんなことを考えていると、見慣れた顔がモニターに映っていて思わず仰け反る。

「いるんでしょ。開けて。」

そう言ってモニター越しに話しかけてきた彼に、わたしは何も返さず解錠のボタンを押す。

モニターから彼が消え、心の準備ができていなかったわたしはとりあえず目に付いたものを片付ける。

アポなしなんてどういうつもり？それより、もう彼女とは話し合えたのかしら。落ち着くわけもなく、気持ちが忙しいわたしを嘲笑うように玄関のインターホンが鳴った。

「お疲れ様。」

『ど、どうも…。』

私服だ。こんな感じなんだ。爽やかで素敵。
なんて一瞬で頭を突き抜け、固まるわたしの顔を覗き込む中島さん。

「入っていい？」

『あ、どうぞ…。』

来客用のスリッパを出して「お邪魔します」とつぶやく彼を招き入れる。

どこか柔らかくなった雰囲気を身に纏っているのは、わたしの気のせいではないと思いたい。