誘愛。3 (ページ3)

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episode99 ページ3

＊

『健人、くん……。』

初めて知った彼の気持ちに、私は涙が溢れる。

彼の気持ちは、なんとなく気付いていた。
でも、知らないふりをしていた。

でも、彼がこんなに私のことを想ってくれていたなんて。

家族という関係を、彼はどんな想いで、どんな覚悟で守ろうとしてくれていたんだろう。健人くんの気持ちを思うと、私は涙なしでは聞くことはできなかった。

「……泣かないで、希さん。」

年甲斐もなく泣いてしまう私に、彼はハンカチを差し出す。

「でも、今は本当に大切な姉だと思っているよ。」

『……っ、』

「だから、こうやって会いにきたんだよ。気持ちの整理がついたから。」

『健人くん…。』

「ごめんね。ずっと避けたりして。」

『ううん…。ありがとう。本当のこと教えてくれて。』

「こちらこそ。俺の話、全部真剣に聞いてくれて、ありがとう。」

涙を拭く私に、健人くんは優しい顔でそう微笑んだ。

もう、嫌われたと思っていた。もう二度とあの頃には戻れないと思っていた。もうこの笑顔を向けてもらえないと思っていた。

だから、こんなに幸せなことはない。

『……じゃあ、次は私が聞いてもいいかな。』

やっと、涙が引いて、落ち着いてきたから私は彼にそう問いかける。

「ん？」

『気持ちの整理がついたってことは、健人くんは新しい恋を見つけたってこと、かな？』

紅茶を口にする彼にそう尋ねると、一瞬悲しそうな目をしたけどすぐさっきまでの柔らかい表情に戻った。

「恋、かどうかはわからないんですけど…。向き合いたいと思える人には出会いました。」

『あら、素敵。』

「うーん。どうかな。」

困ったように笑う彼に、まだ何か隠していることがあると思ったけど、これ以上詮索するのはやめた。

今の私には十分すぎるくらい彼の気持ちがたくさん聞けたのだから。

『じゃあいつか、その話の続きを聞かせてね。』

「はい。そのときは。」

『楽しみにしてる。』

健人くんの持ってきてくれたクッキーに手を伸ばす。

ここからお店が遠いから最近食べていなかったけど、変わらず美味しい。

「やっぱりうまっ」と同じクッキーを口にして目を丸くする彼の姿に、学生時代の面影が見えて。

まるであのときに戻って、話しているみたいで。

心の底から楽しいと思える時間を過ごすことができた。