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『…失礼します。』




コンコンと白い扉をノックすると、
「はい」と返事をする彼女の声が聞こえる。

その声が聞こえると、
俺はいつものようにスライド式のドアを開けた。




キョトンとした表情を見せる彼女。
そんな彼女に俺は微笑んで、入り口付近に置いてあったパイプ椅子を持ってベッドに近づく。




『こんにちは。七瀬さんと同じクラスの中島健人だよ。』




俺がそう言うと、
「あっ」と小さく声を上げ、
持っていた本を机の上に伏せる彼女。




「今日も…来てくれたんですか?」

『俺暇だからね(笑)』

「でも…」

『俺が七瀬さんと話したいだけだから気にしないで?』




パイプ椅子をベッドのそばに置き、
目線が一緒になった彼女に俺はそう答える。

不思議そうにコクリと頷く彼女。




そんな彼女はまだ、

俺に関する記憶を一切取り戻していない。




『あっ、七瀬さん。これ、一緒に食べよう!』




悲しくなる気持ちを振り切るように、
俺は、可愛いロゴの入った紙袋を彼女のベッドの机に置く。




「なんですか…?」




そう言って、
ちょっと興味を持ったのか
子どものように紙袋を覗き込む彼女。

中に入っているものを確認すると、
パッと笑顔になって、嬉しそうな顔を俺に向ける。




『今、駅前に限定でタピオカのワゴン車が来てて。明日で終わりみたいだから、買ってきちゃった(笑)』

「え、嬉しい…。あの、わたし、タピオカずっと気になってたんです。でも、…いいんですか?」

『遠慮しちゃダメだよ。俺だけじゃ2本も飲めないし(笑)』

「じゃあ…お言葉に甘えて。ありがとうございます。」




そう言って、
「いただきます」と一緒に手を合わせる。




「…お、おいしい。」

『やば、めっちゃうまっ!!』




同時に感想の言葉が出て、
顔を見合わせた俺らは
あまりのハマり具合に笑いあう。




「わたし、甘いもの大好きだから本当に嬉しいです。」

『喜んでもらえてよかった(笑)』



あまりの美味しさにか、目をまん丸にしながら
タピオカを飲む彼女。



あの日、七瀬さんが初めて誘ってくれた日に一緒に行くはずだったお店。

彼女は覚えていないってわかってるけど、
でも、その約束をなかったことにはしたくなかった。




美味しい美味しいって笑いながら食べる七瀬さん。




独り占めしたくなるくらい

無邪気で、可愛い

俺の大好きな笑顔だ。

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作者名:舞子 x他2人 | 作成日時:2018年1月1日 18時

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