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『おはよう、七瀬さん!』
七瀬さんと話すようになって一週間。
俺は教室に入ると、いつものように本を読んでいる七瀬さんに声をかける。
下を向いていた彼女の視線が俺の方を見上げて、
まん丸の瞳が俺を捕らえる。
イヤホンをつけていた彼女はそれを外すと、
ニッコリと微笑んだ。
「おはよう、中島くん。」
『えっ…。』
自分の名前を言おうとした瞬間、
彼女の口から俺の名前が溢れた。
予想外のことに目を見開くと、
彼女はふふふっと今度は声を出して笑う。
「ごめんね、顔を覚えたわけじゃないんだけど…。
毎日私に話しかけるのは中島くんだけだから、覚えちゃった。」
えへっと舌を出して照れ臭そうにそう言う彼女は、俺が初めて彼女の笑顔を見たときと同じ表情で。
自分の体温が一気に上昇していくのがわかる。
「中島くん…?顔、赤いよ、大丈夫?」
『だ、大丈夫、大丈夫!!
ありがとう。普通に嬉しい!』
ドキドキと胸が高鳴るのを抑えて、平常を保ちながら話す俺。
顔を覚えてない…とはいえども、
七瀬さんが少しでも俺のことを気にしてくれているってことがなによりも嬉しくて。
舞い上がってしまう自分がいる。
『今日は何読んでるの?』
「情報化社会が生み出す未来予想図っていう本だよ。」
『む、難しいそう…。』
「そんなことないよ!私たちの年代にもわかりやすい言葉で説明してあるし、あっ!でも、この人が書いた本で少し前に出した本の方がもっと易しく解説してあるから、そっちから読むのがおすすめかも!
ってごめんね…。私ばっかり喋って…。」
『そんなことないよ。もっと教えて?』
彼女と話すようになって知ったこと。
彼女はよく話す。
しかも、目を輝かせてすごく楽しそうに。
自分の持っているものの大きさを覆うため
他人に気を遣って、自分を押し殺して、
必死に自分を隠して生活してきたであろう彼女。
そんな彼女にとって、1mmでもいい。
拠り所になれる存在になれば。
俺の言葉に大好きな本の話を続ける彼女の笑顔を見ていると、その気持ちがより一層強くなっていった。
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作者名:舞子 x他2人 | 作成日時:2018年1月1日 18時