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「風磨、ご飯できたよー。」





ソファーに座ってテレビを見ていたら、
後ろから声をかけてきたA。





『あ、さんきゅ。』


「冷めないうちに食べよ。」





そう言ってAは、俺がソファーから立ち上がる前に料理のテーブルのもとへとささっと向かう。






『どんだけ腹減ってんの。笑』


「だって、お昼あんまり食べれなかったし。
風磨は面白くないテレビに夢中だし。」


『最後の関係ねぇだろ。笑
はい、いただきます。』


「いただきます。」






二人で手を合わせて、Aの作ってくれた夕飯を食べ始める。






今日は月2、3回のAの母親の出張日で。

その日はいつも家が隣の俺は彼女の家で食事を一緒にする。


Aはいいって言うんだけど、
こっそりAの母親も俺に頼んでくるし、

なによりも、俺がAのそばにいたいから、自分で望んでこうやって過ごしてる。







8年前の、あの日以来、途絶えることなく。







「これ、面白いの?」


『それなりには。』


「へぇ〜。終わったら次はバラエティね。」


『はいはい。』







そう言って、俺が見ている刑事ドラマに見向きもせず夕食をもぐもぐ食べるA。







彼女が刑事ドラマだけでなく、

恋愛、コメディ、サスペンス、ホラー、その他ドラマ、映画全般を好まないのには理由がある。







「ねー、結局犯人だれ?」


『社長の秘書だってよ。』


「秘書。へぇ。眼鏡かけてたから息子の方かと思った。」


『あれ、変装だって。』


「何それ。余計なことしてくれるわね。」







ぶすーっと文句を言うA。






そう、Aがドラマや映画を苦手とするのは、

登場人物の見分けがつかないから。






顔が覚えられないAにとって、

小説とは違って活字でなく目で登場人物の関係性を把握しなければならない映像のストーリーは、

頭を混乱させる要素の一つなのだ。






「はい、終わったから次はお笑い番組!」






エンドロールが流れると、嬉しそうにチャンネルを変えるA。

A曰く、顔の認識の必要とせず、2、3人で行われるコントや漫才は気軽に見れて楽しいとのこと。







“ 相貌失認症 ”







この症状は、

ただ顔が覚えられない単純なものじゃない。







それを、

こうした何気ない日常で実感することが

この8年間で何度もあった。







そしてその数だけ、

Aは、苦しんできたんだ。

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作者名:舞子 x他2人 | 作成日時:2018年1月1日 18時

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