兄の部屋 ページ7
『どっちの部屋がいい？』って言っていたのに、私はしるこさんの部屋にいる。
しるこさんが私の腕を掴んだまま部屋に連れてきたからだ。
選択権、なかった。
でもきっと自分で選んでいたとしても私はしるこさんの部屋を選んでいたと思う。
はこたろーさんは少し嫌がるだろうなって思ったし。
しるこさんは一緒にいたら、なんとなく安心するし。
もしかしたら、そんな私の気持ちを見透かされていたのかもしれない。
しるこさんの部屋はそこまで大きくなかった。
ベッドとタンスと本棚と、一番目を引くのはデスクの上。大きなモニターが二つもある。
そのデスクの前にある座椅子にしるこさんが腰掛けた。
「あ、ごめん。癖でこっち座っちゃった」
苦笑いしたしるこさんはパッと立ち上がって、今度はベッドに腰掛けた。
隣をぽんぽん、と叩く。
"ここに座って？"ってことだろうか。
そろりと隣に腰掛けた。
人、一人分の隙間を開けて。
「狭くてごめんねぇ？」
「いえいえ、何から何までお世話になってすみません」
「んー、なんかやだ」
どうしよう。
もう怒らせてしまったかもしれない。
ずっと優しかったしるこさんに、甘えすぎていたのかも。
『やだ』って言葉に、じんわり涙が浮かぶ。
「ごめんなさ、」
「そんな他人行儀なの、やだ」
「へっ？」
「これから一緒に暮らすんだし、そんな堅いのやだ。敬語もやだ！」
「あ、えっと」
「ちょっと距離取られてんのもやだ！」
そう言ってしるこさんは、私との間の隙間を埋めてきた。
膝がくっつくくらい近くに座り直したしるこさんと目が合う。
「ねぇ、Aちゃん」
「……はい」
「なんでそんな目ぇ、うるうるしてんの？」
しるこさんの手が私のほっぺたを包んだ。
やっぱり、触れる指先もその温度も、優しくて暖かい。
まばたきをした瞬間に、つー、と涙が溢れ出てしまった。
「俺また泣かせちゃった？」
「ううん、しるこさんは悪くないです」
「距離近いのやだ？」
「……嫌じゃないです」
「じゃあなんで泣いてんの？」
しるこさんに嫌われたかと思ったから。
しるこさんが触れたら優しいその手に甘えたくなってしまうから。
ちゃんと言わなきゃ、って思うのに声は出てこない。
しるこさんが私の涙を掬いながら困ったように笑う。
少しの沈黙。
それを破ったのは、ガチャ！と音を立てて大きく開いたしるこさんの部屋の扉だった。
その扉の方に視線を向けたら、目をまん丸にして驚いているはこたろーさんがいた。
続く
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M(プロフ) - みるさん» コメントありがとうございます！更新遅くて申し訳ないですが、嬉しいお言葉ありがとうございます！がんばります(´∀｀*) (5月29日 18時) (
レス) id: f7ed4f78e3 (このIDを非表示/違反報告)
みる - おもしろいです！いつも楽しみに更新待ってます！これからも頑張ってください。応援してます！ (5月26日 22時) (レス) @page6 id: d3a5e32cbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：M | 作成日時：2023年5月3日 5時
