犬のおまわりさん ページ1
＊
自分の名前もわからない。
どこにいたのか、何をしていたのか、何もわからない。
無我夢中に走ってきた。
ただひたすらに。とにかく走らなきゃいけない。
それだけが脳内を支配して。
他のことがすっぽり全部抜けてしまったみたい。
随分と走ってきたのだろう。
スニーカーの底は擦り減っていて真っ黒に汚れている。
喉も渇いた。
でもお金も何も持っていない。
太陽が頭の真上を通り過ぎた頃。
疲れ果てた私はスーパーの駐車場のパーキングブロックに座っていた。
ここに座ってから、初めて人と目が合った。
とことこと近付いてきて彼は私の目の前で止まった。
「ん？迷子？」
「……？？」
「ひとりで来たの？」
「………わから、なくて」
「え？わかんない？お家は？」
「……わからない…です」
「えええ？」
困らせてるんだ、ってことはわかるんだけど。
でも……わかんないんだもん。
気がついたらここにいたんだもん。
「お名前は？」
「………」
「わかんないかぁ」
黙ってしまった私にも明るく話しかけてくれる。
みんな見ぬふりして過ぎて行くから、こんなに私に話しかける人なんていなかった。
誰も私を認識しようともしなかった。
この世界に私はいないんだ、と思ったけど、そうじゃなかったみたい。
私の隣にすとんと腰を下ろして、まだお話を続けてくれるらしい。
うれしい。
人と話すのが久しぶりな感覚だった。
久しぶり……？前は、私は誰と喋っていたんだろう。
脳がぐるぐるしそうなタイミングで、彼がさらに質問を投げかけてきた。
「じゃーあ、今なに食べたい？」
「いま？」
「過去のことはわかんないんでしょ？未来はどうなるかわかんないし。だったら今の話しようよ」
ニコッと微笑む彼の笑顔に心がどくん、と大きく動いた気がした。
「うう、」
「え、まってまって、泣かないで。なんで泣くのぉ」
「兄さん何してんの」
スーパーから出てきたであろう男性が。
私たちに話しかけた。
私たち、というよりは隣の彼に。
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M(プロフ) - みるさん» コメントありがとうございます！更新遅くて申し訳ないですが、嬉しいお言葉ありがとうございます！がんばります(´∀｀*) (5月29日 18時) (
レス) id: f7ed4f78e3 (このIDを非表示/違反報告)
みる - おもしろいです！いつも楽しみに更新待ってます！これからも頑張ってください。応援してます！ (5月26日 22時) (レス) @page6 id: d3a5e32cbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：M | 作成日時：2023年5月3日 5時
