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冬と春の境目、3月中旬。
まだ寒さが残る中で三門市の一軒家に引っ越してきた。
部屋には積まれたダンボールがあり、幼い私にはそれがまるで未知の城のようで冒険心を掻き立てる。
「A、お父さんとお隣の奈良坂さんちに挨拶に行ってきて」
引越し業者との話を終わらせた母が粗品のタオルを手に持つ。よく見ると、まだ二歳の弟である母とおなじ黒い髪と、父や私と同じ青い目をもった璃空が母の足にしがみつき興味津々に当たりを見回している。後から異動先の会社への連絡を済ませた父が顔を出した。
「奈良坂さんの子供も同じくらいだっけ?」
「そうらしいわね。A、人見知りだから仲良く出来るかしら」
父がダンボールに囲まれた私を広い抱き上げる。荷物よりも高い位置に目線が変わり、部屋を見渡せた。子供部屋には木製のベッドとは子供らしい淡いピンクのボックス、勉強机には赤にチューリップのの刺繍が入ったランドセルが乗っている。
背伸びしてようやく見えるくらいの外倒し窓の外からは玄関先の道路が見える。天気は気持ちのいい晴れ模様だ。
「Aは君に似て可愛いからな〜きっと学校でもモテモテだぞー」
「やだもう、そんなこと言ってるからお母さんに嫌われるのよ!」
父の惚気に満更でもない母がバシッと一回背を叩いた。
頼り甲斐のある胸板から皮膚の厚い父はそんな一撃も撫でられているのと同格なんじゃないかと思うくらいよろけることは無く、「ははは」と穏やかな笑いをしながら玄関へと私を下ろす。
「A、お友達…じゃあないな。透くんに会ったらなんて言うんだっけ?」
「こんにちは、たちばなAです。6歳です。」
「よし!可愛いぞ〜」
私の頭に頬をすりすりと擦り寄せる。父は今の歳じゃないと出来ないから、と言ってとにかく私に甘く接している。
他所ではやめろと言われているため、靴を履き玄関からでるとシャキッと背筋を伸ばした。
「おいで」
黄色の小さなスニーカーを履き父と手を繋ぐ。
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nekotan2069puri(プロフ) - Part2ってありますか? (2021年1月31日 5時) (レス) id: 6b085184bf (このIDを非表示/違反報告)
豆腐ノ木(プロフ) - いやぁわざわざ待っててくれてありがとうございます!データは大事にします (2016年8月24日 22時) (レス) id: 2326a3abe8 (このIDを非表示/違反報告)
hikarika(プロフ) - 復活おめでとうございます!更新待ってますね! (2016年8月24日 21時) (レス) id: 8c72317fb5 (このIDを非表示/違反報告)
風間あかり(プロフ) - 風間さん……一体何人で飲みにいったの………? (2016年5月11日 13時) (レス) id: e3aa90e3eb (このIDを非表示/違反報告)
風間あかり(プロフ) - 豆腐ノ木さん» お疲れさま (2016年3月28日 17時) (レス) id: 55a9b6e827 (このIDを非表示/違反報告)
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