猫かぶりの裏の顔2【奈良坂透】 (ページ29)

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駅に到着し定期券を改札に当てる。
外はまだ明るいがこの時間は人通りが少ない。

だからか、私達はお互いをすぐに見つけられた。
いざ目が合うと、どうしたらいいか分からなくて立ち止まる。

｢どうした？｣

すぐ後ろにいた河北が不思議そうに少し腰を曲げ私の顔を覗き込み、視線の先を見る。

それと同時に目が合った相手が近づいた。

｢透｣

私達を見て不機嫌そうになっている。河北よりも一歩前に出た。

一気に不安になり顔が強ばる。目の前に立つと、私と、河北を交互に見て数秒待ってから口を開く。

｢迎えいらなかったか｣
｢え？｣
｢送るやつがいるなら必要なかったと聞いてる｣

(これは…拗ねてる？)

それだけだと可愛いものだ。
しかし、それを聞いて河北は動き出す。せっかく一歩前に出たにもかかわらず私と透の間に入った。

｢同じ生徒会の河北です。君は…

Aのお兄さん？｣

ピシャーーンと雷が落ちたみたいな衝撃が走る。
まさか、と思い顔を見る。

(これ、めちゃくちゃ喧嘩買ってる)

普段よりもきっちり口角を上げた見事な営業スマイルだ。

｢進学校でも頭と目の悪いやつは居るんだな。健康診断受けた方がいいぞ｣

まさに一触即発。まさか、私を巡って争わないで！なんて台詞が思い浮かぶ日がくるとは。幼い頃の私に言ってやりたい。

それはそれとして、人が少ないとはいえこれ以上バチバチになる前に退避しなければならない。

｢迎え！迎えに来たんでしょ？帰ろう、ね？｣

電車の中で顔を合わせたら何を言おうとか考えてたのが馬鹿らしくなった。
私は透を回れ右して背中を押し駅から足早に出ようとする。

｢また火曜日、お疲れ様！｣

河北は手を振り見送り見えなくなってから自分も歩きだす。

(随分と印象が違うな)

参考にしようとしたが、思っていたよりも子供っぽい反応につい弄りたくなってしまった。

とてもじゃないがアレは真似出来ない。もれなく従姉妹の餌食になるだろう。

本日はとてもいい結果とはいかなかったが、また火曜日と言われただけで今は十分。我ながら安いなと鼻で笑いつつバッグの収納からイヤホンを取り出し耳に付ける。

優雅に踊るようなクラシックが流れた。