もう1人のマイキー【東卍】

26話 独白 ページ29

※過去話です

中学一年の夏。その日は、夏真っ只中なのに少し肌寒い日だった。S・S MOTORとかかれた店の中にAはいた。店内の奥にある小さな作業部屋。オレはココアを飲みながら、目の前でバイクの作業をする兄貴を見つめる。Aはこの時間が大好きだった。正直バイクの事は詳しくない。多分万次郎たちの方がよっぽど詳しい。でもこの独特のオイルの匂いや、ずらっと並べられたバイクがあるこの空間はなんだか居心地が良かった

『シンイチロー、それなんてバイク？』

シ「ん？これはバブっていうんだ。ちなみにオレが乗ってたのもバブだぜ」

『ふーん赤ちゃんみたいな名前』

バブ…ともう一度反芻する。時計をみると日が変わる時間。温かいココアのせいもありうとうとと船を漕ぐ。それに気付いた真一郎は、何も言わずAが持っているコップを取り、ぽんと頭を数回撫でる。大きくてあたたかい兄貴の手。その熱がじんわりと心の奥まで沁み渡る。刹那、ガチンという妙な音が店内に響き渡る。今いるのはAと真一郎のみ。戸締りはしており、可能性としては一つしかない。その事に気付いた真一郎は、ちょっと見てくるワと言い残し店内に行こうとする。その時オレは、少し嫌な予感がし、無意識に兄貴の服の袖を掴んでいた

『シンイチロー、オレも行く』

シ「あぶねーからAはここにいろ」

心配すんな、と再度頭を撫でるとそのまま店内へと消えていく。Aはぺたんと先程までかけていた椅子に座り直すがもしも、という不安が脳裏から離れない。それは考えすぎかもしれない、だけど…ぐるぐる頭の中を巡る最悪な未来。居ても立っても居られず、その場から離れ真一郎の後を追う

そしてオレが予感していた最悪な未来が、現実となって襲ってきた。目の前で何者かに背後から殴られ倒れていく兄貴の姿を

「何やってんだよ一虎！！」

強盗のうち1人がそう叫んでいる。暗い店内だが、見えない程の暗さではなくAはそこにいるのが友達の場地と一虎だと理解してしまった

『シンイチロー……？』

ばっと2人の友人がこちらに目を向ける。圭介がオレの顔を見て驚いた涙がこぼれ落ち、一虎は暗い室内でもわかるほど血の気が引いているのがわかった。そこからの記憶は曖昧で、正直覚えていない。警察に取り押さえられて、初めて意識が覚醒した。そこには、倒れたままの兄貴とオレの名前を叫ぶ圭介、そして顔の原形がわからない程殴られ意識を失っている一虎がオレの下で倒れていた。

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