十年日記 (ページ4)

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そして僕の手にその缶を握らせると

彼女は真っ直ぐに僕を見て

「今さらですけど･･･」

「初めまして丸山隆平さん」

「あなたにどうしても会わないといけない」

「そう思って今日はきました」

「忠義の･･･」

「大倉忠義の妻です」

そう言って

とても綺麗な一礼をすると

何も言えず両手で缶を握りしめる僕を

一瞥してから

彼女はキッチンに戻って

やかんを火にかけた

それから

小さな食器棚をかなりの割合で占領している

たつが綺麗に洗ってしまっている

コーヒーをいれるための道具に目をやった

その時

こわいくらいに無表情だった彼女が顔が歪んで

僕は彼女が泣いてしまうんじゃないかと思った

けど彼女はゆっくりと息を吐き出し

「やっぱり金属がいいのね」

って小さく呟いてその道具に手をかけた

僕は慌てて

「それは僕のじゃないから」

そう言って止めたのに

彼女は

「もう使う人はいないのに？」

って元の無表情に戻って言った

けど

その声はやっぱり泣いているかのように震えていたから

僕は何も言えなくなってしまった