耳元で歌わせて (赤) 6 (ページ25)

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仕事終わって帰ろ思たとき

Aちゃんはまだ机の上片付けとった

俺は誰ともなしに

｢お疲れっしたぁ｣って声かけ席を立つ

途中のエレベーターに紗奈ちゃんが乗ってきて

俺の方を黙ったまんま睨んできた

なんやねん

怒ってるん俺の方やからな

睨まれる筋合いあらへんわ

ちょっとイラッとしたけど

まぁ他にも乗っとる人おったし

何よりヒナにもくぎさされとったから知らんぷりしとく

エレベーター降りしなにわざとらしく｢フンッ｣って言うてったんに

｢マジでガキンチョか｣ってアホらしなって

心ん底から相手するんやめよって思たわ

駅着いてICOCAの定期払い戻しして

Aちゃんとこの路線の会社行って新しい定期買う

電車乗る前にスマホ確認したら

Aちゃんから

『ドラッグストア寄って帰るから少し遅くなります』

ってメッセージが入ってた

『了解』

ってだけ送って電車乗り込む

今まで俺が使こてた路線より少し混んでてて

入口近くにもたれて立つ

さっきのLINEの短いやり取りを思い出しとったら

すっかり外は暗くなっとって

鏡みたいになった窓にうつる自分の顔が優しすぎてびっくりして

頑張って無表情作って車内に背中をむける

窓の外に流れる灯りがいつもと違う事に

車内の風景が違う事に

初めて一人で電車乗って出かけた時みたいな

得意で嬉しいような

不安で泣きたいような

不思議な感覚に襲われた