最年少幹部部下となりました ３冊目

苦労の記録１４４ ページ47

袋の鼠。
芥川からすれば、雪也が今回の一連の首謀者であることは自明であったし、自白させればもう逃げ場はない、殺してしまえばいい。
雪也に向かって尋問を始めようと、口を開いた、その時だった。

「追いつめたって思ってる？」

芥川に背を向けたまま、雪也が問うた。静かな声だった。

「芥川龍之介。スラム街出身の孤児。妹が一人、約半年前に太宰治に拾われてポートマフィアに入る。異能力で、身に着けた衣服を変化させることが可能」
「……」

つらつらと芥川の情報を並べていく雪也のさまを、芥川は黙って眺めた。首謀者ともくれば、ポートマフィアの己のことを知らぬはずもあるまい。驚きはしなかった。
　しかし次の台詞で芥川は息をのむ。

「その制服じゃ、せいぜい人を普通に刺し殺すことしかできない」
「！」

　そんなんで俺を殺すつもり？と、言外に言われたのを察した。情報によれば、柏木雪也は異能を持たないはずだが、巧妙に隠してきた可能性がある。まさか異能を持っているのかと、警戒を一気に高め、雪也を静かに見据えた。
　雪也はくるりと振り返って、からからと笑いだす。おかしくて仕方ないといった風に、嘲笑った。

「今警戒するの？遅いなあ、きみ本当馬鹿だね」
「貴様……！」
「安心しなよ、俺は異能は持ってない」

手をひらひらさせて、無害アピールをする雪也は、確かに普通の高校生。

「でも俺は君を殺すよ」

───爆弾を仕掛けたからね。

世間話のように宣言したものだから、雪也の話は本当かどうか疑わしくなる。芥川の疑念が顔に出ていたのが雪也には分かったようで、彼はにこりと微笑んで、本当だと言った。

「あと二十から十五分ってとこかな」
「どこに仕掛けた」
「言うと思う？」
「……狙いは僕か」

　ようやく、本当にようやく、芥川は理解した。
この柏木雪也の狙いは、ポートマフィアへの反逆でも愉快犯でもなんでもなく、最初から芥川への復讐ただひとつだったことを。
　そして、今それに気づいたところでもう遅いということも。

「そうだよ、最初から狙いは俺の妹を殺した君だ」

袋の鼠。
十分なリーチのある外套ではなく、頼りない制服に身をつつみ、屋上に誘導され、しまいには爆弾の居場所もわからない。
爆弾相手に隠れる場所がないのは、どちらなのか。
殺してしまえばいいと思っているのは、誰なのか。
────【逃げる場所がないのはどちらで、敵を追いつめたのはいったい誰なのか】

「わかってくれた？」

苦労の記録１４５→←苦労の記録１４３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す