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 骨折は完治までに長くて一ヶ月はかかる。それまでに、処刑玉砲は終わってしまう。それだけは避けたいリズは、もうこの手段しかないと顔をバッと上げて、ブルシェンコ先生に向けた。

「先生の半永久(ヒール)でどうにかできないんですか…!?」

 藁にすがる思いで、一筋の光を追い求めて希望を抱くリズ。それはたった一言で崩れ落ちてしまう。

「私の半永久(ヒール)は折れた骨を完全にくっつけるほどできているものではない。それに、接骨となれば尚更医学的な治療を受けた方がいいだろう」
「そんなっ…」

 目尻に涙を浮かばせ、絶望した表情になる。ブルシェンコ先生ですら完全に治すことができないとなると、処刑玉砲にまで間に合わない。それはリズにとって、何よりも酷すぎる仕打ちだった。

 シンペイとブルシェンコ先生がまだ仕事が残っていると言いつつ彼女を案じながらこの場を離れていった後、一人残されたリズは悲しみと絶望に打ちひしがれていた。

「ひどいよこんなの…っ……一緒に頑張るって、みんなと約束したばかりなのに…!」

 前髪で目が隠れて表情はよく見えないが、間違いなく歪んでいるだろう。証拠に下アングルから覗かれたリズの表情は、眉間に皺を寄せ、目は潤わされ、目尻からも目頭からも大粒の涙が溢れていた。

 いくら魔法のある世界とはいえ、無闇に魔法で治してしまってはかえって骨の形をめちゃくちゃにしかねない。それくらい、リズにも分かっていたのだ。

「(分かってるよ……でも……)っ…ああぁぁぁぁあ!!」

 ───ガッシャーンっ!!!!

 派手な音が医務室全体に響いた。座っていた椅子を思い切り床に叩きつけたのだ。片足で立つには些か疲れるため、リズはその場にへたりこんで荒くなった息を整える。

「はぁっ…はぁっ……」

 ふとリズが窓の外に目を向けた。外は夕陽に包まれ、そろそろ日が暮れる頃になっていた。すっかりハイライトの消えた瞳に夕陽の光りが差し込む。

「………帰ろ」

 小さくポツリと呟いて、リズは翼を広げて、医務室に移された荷物を持ち上げながら立ち上がり、そのまま飛行して移動した。

「(………私、本番に出られなければ、もうみんなと練習することもなくなるのかな…)……嫌だなぁ…」

 後ろからのアングルのため顔がよく見えないが、頬には確実に涙が伝っており、頬から零れた涙は空中に落とされた。それが何粒もポタポタと繰り返され、夕焼けの空にキラキラと光り輝いていた。

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作者名:真夜 | 作成日時:2023年7月15日 10時

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